Friday, May 30, 2008

予告

線維芽細胞をHox遺伝子発現による分類をした良い論文を紹介します。PLoS GeneticsとPNASの論文となります。

上大介氏の論文(PLoS One, 印刷中)を紹介します。特に、なぜグレムリンが心筋形成因子であると考えたかを紹介します。

病理マニュアルを監修しました。紹介させてください。



Friday, May 16, 2008

ppt ファイル

パワーポイントのファイルを送付します。一度、片山より送付したようですが、届いていないようでしたので、再送付します。



Sunday, May 11, 2008

つづき---自然の摂理に反している。---

現在米国のNIHで研究をしている昔の研究室仲間がiPS細胞を指して、「自然の摂理に反している。」と言っていると伝え聞いた。このiPS細胞を作り出せるという発見は、体細胞から他の細胞への変身(分化転換)がいろいろな場合において可能であることを意味している。間葉系細胞から膵β細胞を作成することも可能であろうし、皮膚表皮細胞から肝細胞を作成することが可能かもしれない。



つづき---iPS細胞ってなに---

 iPS細胞とは、一言で言うと「体細胞から作られた胚性幹細胞(ES細胞)」である。これだけでは、何のことやら分からないので、ひとつひとつ説明したい。まず、体細胞とは、体中の細胞のうち生殖細胞以外の細胞を指す。生殖細胞とは精子、卵子、またはそれらになる細胞であるから、体細胞とは骨、筋肉、内臓や脳といった身体を構成する各組織、各臓器を作っている細胞のことで、ほとんど全ての細胞を指すことになる。次に、胚性幹細胞である。胚性幹細胞は、英語ではEmbryonic stem cellと言い、頭文字をとってES細胞と言われる。一般に新聞ではiPS細胞、ES細胞は英語で表すことから、本稿でもここから標記をES細胞とする。iPS細胞は、体細胞から細工をしてES細胞を作り出すことから、英語でinduced Pluripotent stem cellと言い、頭文字をとってiPS細胞と言われる。略した時の最初の文字であるi(アイ)が小文字なのは、iPodやiMacをまねて小文字にしたようである。この細工の仕方が巧妙であったことと、体細胞からES細胞はできないと考えられていたため、iPS細胞が注目を浴びた。

 幹細胞の定義は、「多分化と自己複製能を有した細胞」となる。多分化能とは、多くの種類の細胞に分化できる能力のことを指す。また、自己複製能とは、分裂することにより自身と同じ種類の細胞を作り出す能力を指す。複製とは、2倍、4倍と増えていくことに他ならない。受精卵が有する性質である全能性とは、英語ではTotipotencyと言う。受精卵は、子宮内で発生することで全身の細胞に分化することが可能である。ES細胞やiPS細胞に良く使用される万能性とは科学的な意味合いはなく、治療戦略を考えるといろいろな用途に用いることが可能であることを直感的に表現したものである。生殖細胞(卵子や精子)を含めた全ての細胞になることが全能性であり、このような能力を有している細胞としてES細胞とiPS細胞があげられる。もちろん、受精卵ならびに受精後何回かの分割卵の個々の細胞は全能性を有しており、生殖細胞由来の細胞にもこのような全能性を有している細胞が存在しているが、ES細胞及びiPS細胞が実際に医療の現場に最短距離にいることは間違いない。

 iPS細胞の作り方を理解するのは決して簡単ではない。体細胞に対して、4因子を導入することが必要となる。現在は、3因子でも可能とされており、将来は因子の数を2因子にしたり、1因子にすることが可能となるかもしれない。ここで言う因子とは、具体的には遺伝子のことを指す。sox2, oct-4/3, klf-4, c-mycと言われる4つの遺伝子をここでは、4因子としている。山中氏のすばらしい点は、この4因子の発見と、もうひとつは因子を導入したところで体細胞はES細胞に変身することはないと思われたことを覆したことである。「自然の摂理が間違っていたんだよ。」とiPS細胞作成に対して、悔し紛れにわれわれの間で話すが、実際には何かしっくりこないところはある。コロンブスの卵ではあるが、4因子のうちの2つが細胞の性質を変え、残りの2つが細胞の性質を維持することに働いていると予想されている。

 なお、ES細胞は受精卵が発生した胚盤胞の一部から作成することより、倫理的に問題があるとされている。iPS細胞は、体細胞から作成することより、ES細胞に比較し、その倫理的な問題点はかなり少ない。倫理学者が倫理的な問題点が全くないわけではないと指摘するものの、ヒト生命の萌芽を滅失する必要がないところは大きい。現在は、ES細胞及びiPS細胞から生殖細胞を作成することが禁止されているが、われわれは生殖細胞を作り出すことが問題ではなく、作り出された精子や卵子を受精させることが倫理的に問題と考える。もう一度、ES細胞の歴史、iPS細胞の歴史をひもとくと、1981年に米国にてマウスES細胞が樹立され、この発見に対してノーベル賞が与えられた。1998年にヒトES細胞の樹立が報告された。この論文を読んだときには、ヒト胚盤胞を滅失することから、そんなことをしていいのかと驚いた記憶がある。2006年にマウスiPS細胞、2007年にヒトiPS細胞が樹立された。発見とせずに樹立と言うのは、これらは永遠に増え続ける不死な細胞であることからである。



Sunday, May 4, 2008

公開講座向けの幹細胞に関する講演原稿

 昨年(平成19年)末、新聞紙上に科学政策史に残るであろう記事が掲載された。2008年度予算の財務省原案に対する復活折衝が額賀財務大臣と各省大臣らとの間で行われ、山中伸弥氏が開発した「万能細胞」(人工幹細胞=iPS細胞)の応用研究を支援する経費として10億円の追加が認められた。もともと15億円が計上されていたことから、合計25億円の研究費が万能細胞へ行くことになった。全ての研究費が万能細胞・再生医療に行ってしまい、他の基礎研究がないがしろにされるのではないかと危惧されたが実際にはもともと決まっていた予算に(科学政策以外の予算から)追加されたことになり、全体として科学研究費が増えたことになる。このような例外的な予算措置は、日本発の発見である人工万能細胞であるiPS細胞が再生医療の薬剤として期待されるからであった。

1.iPS細胞/幹細胞をめぐる国内報道
 iPS細胞がどのようなものかは後述するとして、まず数多くの国内におけるiPS細胞の過熱気味の報道を紹介したい。山中氏がiPS細胞を発見したのは、マウスにおいて2006年のことである。その時も報道はされたものの、科学者の間で注目されたものの一般的には今ほど大きな話題とはならなかった。その後、2007年11月30日にヒトiPS細胞ができたことが発表されるとテレビ・新聞報道が次々となされた。それも、ブッシュ大統領が「これからはiPS細胞だ。」と言ったことから、日本の政治家も興味を持ちだした。その後、さまざまな国の会議でiPS細胞は話題になり、内閣府特命担当大臣である岸田氏と山中氏の意見交換、総合科学技術会議のiPS細胞研究ワーキンググループ立ち上げ、また2月28日には自民党本部にて科学技術創造立国推進調査会・ライフサイエンス推進議員連目の合同会議にて議題としてあげられ、科学の一分野から国の一事業として幹細胞研究が成り上がっていった。

2.世界における幹細胞関連の政策
 幹細胞という言葉が新聞に掲載されるが、「かんさいぼう」と読む。実は、科学的には万能細胞は幹細胞と呼ばれ、万能細胞はジャーナリストがつくった造語である。しかし、理解しやすいところから万能細胞という言い回しが一般的になった経緯がある。この幹細胞研究に対する姿勢は、2008年の大統領選挙の公約にもあげられている(表1)。共和党のマケイン候補、民主党のクリントン候補、オバマ候補(この原稿の執筆時は民主党候補は決まっていませんので両候補の公約を列挙します)のいずれもが胚性幹細胞(ES細胞)に対し、多少のニュアンスの違いはあるものの推進・支持の態度をとっているため、論点にはなっていない。しかしながら、ブッシュ現大統領は連邦政府の研究助成を一切禁止しているため、今後、米国の幹細胞研究は大統領選挙後に大きく変化することは間違いない。

 そもそも、ブッシュ米大統領は上下両院で可決されていたヒト胚性幹細胞研究の推進法案(法案番号 H.R. 810)に対し、拒否権を行使したことがある。この法案は、米国内の研究機関が行う臓器再生など胚性幹細胞を使った研究に対し、助成金に関する連邦予算の歳出規制を緩和する内容であった。ヒト胚性幹細胞は人体のあらゆる細胞に成長できる能力を秘めており、治りにくい病気の治療法開発に強い期待がかけられている。しかし、胚性幹細胞を利用するためには受精卵を壊さなければならない。そのため、ブッシュ大統領は、胚性幹細胞の研究について「我々の社会で尊重する必要のある、道徳的な境界線を踏み越えている。それが拒否権を発動した理由だ」と述べている。そのブッシュ大統領が、iPS細胞に対しては倫理的な問題点がないことより、推進する態度を表明している。

 米国においては、ブッシュ大統領が連邦予算を拠出しないことより、民間からの寄付が幹細胞研究の資金となっている(図1)。バックツー・ザ・フューチャーで有名な俳優であり、パーキンソン病に苦しんでいるマイケル・J・フォックス氏は財団を通じて120億円を寄付している。そのウェブサイトに記載されている、「研究に資金提供しているのではない。結果に、資金提供しているんだ。」というタイトルは厳しい。また、ミズーリー州のストワーズ氏は、保守的なミズーリー州ではなく、ハーバード大学に対し、資金提供をしている。ハーバード大学のウェブサイトには、資金提供を受けたエガン氏とストワーズ氏の写真が掲載されている。

 英国では、ゴードン・ブラウン首相はもともと財務大臣の頃から幹細胞研究を推進している。2005 年 3 月、ブラウン財務大臣(当時)の提唱で、英国での幹細胞研究を強力に進めるため、官学界の有識者により構成される英国幹細胞イニシアティブ(UK Stem Cell Initiative:UKSCI)が設立された。UKSCI は 2005 年 11 月、「英国は幹細胞研究における強みをさらに強化し、向こう 10 年間に、幹細胞治療およびその技術における世界のリーダーの一つになる」との目標を掲げ、政府に対する 報告書を発表した。同報告の提言を概括すると、①官民コンソーシアムの設立、②幹細胞バンクの機能強化、③基礎研究資金の増額と中核研究拠点の育成、④臨床研究の推進、⑤関係組織間の調整機能の強化、が政策の柱といえ、既に高いレベルにある基礎研究の成果をいかに治療や産業応用に繋げていくかに力点が置かれている。幹細胞関係の予算については、2006 年と 2007 年の足元 2 年間をみると合わせて約 1 億ポンド(約 230 億円)となっている。