基礎研究の倫理審査において、ここ10年程度に渡り多くの時間を費やしてきた。ほどんどは倫理審査をする側ではなく、研究者として申請する側である。ゲノム指針が施行されてからすぐに申請を開始したこと、またヒト細胞を用いた研究を中心に行ってきたことより、倫理申請に精通することで、倫理申請に関して不得手な研究者に比較すると、ヒト細胞を使用した多くの研究を独占できてきたところもある。また、ヒト細胞を用いた研究に関する科学研究費を獲得することになった。倫理審査を受けるという、現代科学では必要不可欠なプロセスではあることは間違いないが、同時に優秀な科学者であるが倫理審査手続きが不得手であるが故に研究を進められていないことをしばしば見る。社会的な手続きが不得手である科学者達の能力が活かされていないのは社会にとって損失であり、医学研究である場合には患者にとって結果として不利益になるように思っている。
さらに、その結果として倫理が厳しすぎるために患者に解決策がいかなくなるというリスクが増大することが考えられる。事実、倫理問題を解決できていない研究者は、ヒトを対象にする研究が遅れたり、行わないような傾向にある。誤解を恐れず言えば、一般的に倫理審査委員会にかかわる時間を取られることを嫌う科学者は研究レベルが高いように感じる。このような感じ方には、客観的な事実があるわけではないので、大きな反発を受ける可能性があるものの、倫理審査にかかる時間を軽減することで、実際の研究時間を確保できると予想する。この議論は、結構重大であると思う。倫理の問題が解決できずに進まない研究は確実にあると思っている。患者が不利益を被らないように進めてきた倫理審査自体が、科学の進歩を遅らせるというリスクを生じているという事実があるように感じている。科学の進歩なら兎も角という方がいるだろうが、同時に治療法が開発されないために、治療できる可能性があった患者が罹患している疾病により患者が不利益を被るリスクもある。二つのリスクの問題は、改めて専門家に議論を進めて貰いたいと思う。倫理にかかる議論はレベルが高く、現場の科学者が時間を割くことができないという現実もある。
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