iPS細胞が新しい局面を迎えている。厚生労働省医政局が所管する「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が、iPS細胞を用いた臨床研究を申請できるように改正され一年が経ち、基盤研究は加速され、製品の品質管理にかかる研究も明確に開始され、iPS細胞加工医薬品の性能裏付け試験に関する進歩も著しい。世界に先駆けて、安全性にかかる薬事法上のガイダンスも用意され、それにかかる論文も本特集で早川によって書き下ろしていただいた。iPS研究は山中による発明・発見であり、多くの研究者が参加してきたことにより日本における技術革新もあり、世界をリードしていることは間違いない。一方、米国を中心としたiPS研究もめざましい発展が見られる。正直な感想としては、京都大学を中心としたiPS研究チームも負けてはいられないという状況ではないだろうか。現在は、基礎研究を中心としたiPS研究から、基礎研究と共に、「作成技術革新」、「性能裏付け試験」、「品質管理」に関する臨床に向かう取り組みの進展がめざましいように感じている。iPS研究が、iPS医療に向い、バランスが取れた研究構築ができあがりつつあるということが現在の特徴ではないか。iPS医療は、夢の医療から現実の医療に向かう局面なのだ。
特集「次世代iPS医療」の原稿を読んでいるときに、ES細胞の臨床試験を行ってきたジェロン社が撤退するというニュースが飛び込んできた。脊髄損傷患者5人へES細胞加工医薬品(GRNOPC1)を使った臨床試験を実施中であったにもかかわらず、経営上の理由からの臨床試験中止は残念でならな
い。少なくとも移植された患者に、ES細胞加工医薬品の安全性にかかる問題が全く認められないということである。ES細胞研究では規制、倫理の問題が先行してきたところであり、iPS研究ではそれらの問題が皆無と思われてきたが、iPS細胞から生殖細胞の作製に成功してからは、iPS研究にかかる政策、法、倫理に関する社会科学においても、日本が世界をリードしているように思えることである。生命科学的な側面のみならず、行政的な取り組みが精力的に行われていることは心強い。また、規制側のチームがiPS研究に対する取り組みを注視していることに限らず、積極的に情報を仕入れ、発信していることである。もちろん、新しい技術革新によって産まれた新規の細胞であることより、規制に関しても新しい考え方を思考し判断することも求められているところが、iPS研究またiPS医療の特殊なところであろう。
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