やっとMAPCも、あやしいということになったか。ずいぶんと長かった。知り合いの実験は、どうしてくれるんだ。
万能細胞の論文に「重大不備」 02年ネイチャー誌掲載
2007年02月25日
ネズミの骨髄の幹細胞から、多くの臓器になりえる「万能細胞」を作り出した、とする02年6月の米ミネソタ大の研究者の論文について、「重大な不備」があるとの結論を同大がまとめた。AP通信が23日、報じた。
論文は、キャサリン・バーファイリー博士らが執筆し、英科学誌ネイチャーに掲載された。ネズミから取り出した幹細胞が、脳、心臓、肺、肝臓などの細胞に育つ能力があることが確認できたとしていた。
しかし、同大の専門家委員会は、育った細胞を確認する過程に問題があり、そのデータに基づく論文の解釈は正しくない可能性があるとした。ただし、捏造(ねつぞう)ではなくミスだとしている。
骨髄の幹細胞は、一部の細胞に変化し育つ能力が知られていたものの、万能細胞のように働くとはわかっておらず、同博士らの論文は、再生医療につながる成果として、当時注目されていた。
しかし「同じ結果が再現されない」などの疑問が他の研究者から出ていた。英科学誌ニューサイエンティストが、同博士が別の論文に使った別の細胞の研究データと同じものが論文中にあると指摘。今回の問題が発覚した。
Wednesday, February 28, 2007
AP通信 黒っぽいMAPC
ワープロの話
20年前の話である。大学の研究室で自らのキヤノン製ワードプロセッサーには、医学変換辞書がなかった。医学変換辞書がなければ、医学用語をひとつずつ登録するしかない。登録しないと使いにくくてしかたがない。病理解剖に関する、自分がよく利用する用語を登録する作業は手間のかかることではあるものの蓄積することによる快感もある。当時のワードプロセッサーには、医学領域でよく使用する漢字すら登録されていなかった。「脾」、「鬱」は自分で作った記憶がある。漢字を0と1のコードに変えて、ひとつの文字で30分くらいはかかった。教授も同じワードプロセッサーを利用していたので、自作した医学変換辞書と漢字をいくばくかの金銭と引き換えにしようと思っていたら、教授も自ら医学変換辞書を作成していた。そんな時代である。キャノン製ワードプロセッサーが40万円したころの話である。
そうしているうちに、そのワードプロセッサー用の医学変換辞書がキャノンから発売になった。6万円くらいであった。カセット式のソフトであり、教授のソフトを黙って自分のワードプロセッサーにインストールすることはできなかった。正直申し上げて、大学院生であった私には、極めて高価なソフトであったけれども、すぐに購入した。医学変換辞書を自作している者にとっては、これ以上のものはなく、作成した会社にたいへん感謝したことを覚えている。ワードプロセッサーは中古がでるまで待ったのに、医学変換辞書のソフトは待てなかった。医学変換辞書ソフトを利用する前と利用した後では、全く異なる状況となった。先輩と私は、日本語で学位論文を提出したので、そのときはたいへんにありがたかった。教授が訂正する一字一句に書き直さなくてすむことに感謝した。ワードプロセッサーのお陰とも言えるが医学変換辞書ソフトのお陰とも言える。医学変換辞書ソフトがなかったらと思うと、ぞっとする。指導教授からの言葉が忘れられない。「XXくん、昔は教授から直しが入ると毎回書き直してたんだからね。君らは楽だよ。」こちらの感想は、「そんなことを言うなら毎回直すなよ。」今から思えばよく読んでいただき、直してもらったなと思う。自分は大学院生に言うのは「いいんじゃないの。字の間違えをコンピュータでチェックしておいてね。」
Saturday, February 24, 2007
幹細胞と受精の研究と再生医療をがんばる
セルプロセッシング・ルームは再生医療を念頭にした細胞培養室であり、東京、京都、神戸、名古屋に設立されている.今の研究所には既にGMP基準に準拠した施設が存在しており、治療プロトコールの倫理申請に向けて細胞培養のシミュレーションが繰り返されている.異動してきた私自身にとってこの施設は誠にありがたいものである.以前所属した大学には存在していなかったからである.医療を前提とした場合はこの施設は必要不可欠であり、逆のことを言えばセルプロセッシング・センターなしでは、細胞培養を伴う再生医療を目指したとしても研究レベルにとどまることになる.再生医療は発生学・材料工学・細胞生物学の発展に伴って進展し、細胞を薬と見なして行う新たな試みであり、増殖因子・分化誘導因子、マトリックス、生分解性ポリマーならびに幹細胞を上手に統合することで組織を再生する.用いる細胞は,さまざまなレベルの幹細胞が考えられ,大きく胚性幹細胞と成体幹細胞に分類される.胚性幹細胞は胚盤胞の内部細胞塊より樹立する細胞株であり,驚くべきことに全身の組織や細胞に分化する能力を維持しており,全能性を有している.一方、成体幹細胞は,各臓器,組織に存在する幹細胞であり,限られた範囲の中で多分化能を示し,部分全能性を有している.組織内には、その組織における特定の働きを担う、すでに分化を終えた細胞が多数存在しており、中にはそうした特定の働きを持つ細胞へと分化する前の未分化細胞、すなわち幹細胞が混じって存在している。成体幹細胞は、自らと同じ細胞を複製し、製造する能力を持つとともに、分化によって、それが存在していた組織内のあらゆる個別細胞を作り出すことができる。特定の組織に分化することがわかっているためにすでに多くの治療に生かされている.成体幹細胞は、骨髄や血液、目の角膜や網膜、肝臓、皮膚などで見つかっており、脳や心臓としった従来は幹細胞が存在しないとされた臓器でも発見されている。また、骨髄の中にある間葉幹細胞と呼ばれる幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、骨格筋、心筋、神経に分化する。自らの体からとり出した成体幹細胞の治療への活用は免疫的な拒絶反応の問題を心配する必要がなく現実的である。
この現実的なアプローチを疾患に対して早期実現化するためには、ヒト細胞を用いた基盤研究が必要不可欠であり、ヒト細胞を用いるには倫理委員会の承認を受けることが要求される.白浜で開かれた研究会で、朝日新聞の記者が「再生医療は、さまざまな先端医療を進める上での手本となるようなプロセスを経るべきである.」と社会への透明性・公開性の確保を指摘したことを思い出す.倫理委員会の議論は公開されるべきであり、倫理申請書類は丁寧に審査される.医療の過程は公開されるべきであり、論文として詳細が出版される前にも発表が必要である.細胞が薬として扱われるために、ソフトの面でもGMPに準拠した手続きが必要となる.「夢の医療」とよばれた再生医療が、今は現実に書類の山の中にいるところまできたことは嬉しいかぎりである.新しい研究所の横には、庭園内に小川のようなドジョウもいる流れがあり、その両岸にはコクマザサ、セリ、柳、スイセン,ヒガンバナ、クワイ、ミソハギ、ネコジャラシが植えられている.研究室には受精の研究で世界の最先端をいく者もおる.がんばらなくてはいけない.
Wednesday, February 21, 2007
再生医療とゲノムインプリンティング
昔(平成18年6月16日号)のサイエンス誌を読んでいたところ、「骨髄細胞から卵子ができなかった」というNature論文に対するコメントを掲載していた.生体内で体細胞から生殖細胞が形成されるというアイデアは魅力的ではあるものの、どうも現実ではないらしい.しかし、不妊の患者にとって体細胞から精子や卵子をつくりだすことができれば福音となる.その一方、配偶子形成過程では、ゲノムインプリンティングが正確に生じなくては発生過程に障害が生じ、奇形につながる可能性を否定できない.
その約一年前の衝撃的な発表は白血病で骨髄移植を受けた女性の患者さんが少し心配になるようなものであったが、長くなるがまとめてみたい.ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院の生殖医療ビンセント・センターにあるTilly博士のグループが、「骨髄細胞や末梢血に由来する細胞か卵子が形成された」という論文を平成17年7月のセル誌に発表した.このことをそのまま解釈すると、白血病になった女性の患者さんは骨髄移植を受けた場合、そのドナーの細胞に由来する卵子ができてしまうことになり、ドナー(他人)の卵子を有し、子供を設けることができた場合はややこしいことになる.実際の論文ではマウスを用いており、ドナー由来の骨髄細胞や末梢血細胞は生殖細胞ならびに卵子のマーカーを発現するようになるものの妊よう性は有していない.
Tilly博士らは、ドキソルビシンで処理することで原始卵胞を少なくしたところで2ヶ月後には卵胞の数が回復することから、なんらかの体細胞に由来する細胞が卵子をつくるのではないかと予想した.そこで卵子マーカーであるOct4, Mvh, Dazl, Stella, Fragilis, Noboxを骨髄細胞で調べたところ、量的には少ないもののいずれも発現を認め、それらの遺伝子発現は24歳から36歳の成人女性ドナー骨髄でも検出された.驚きの連続で恐縮であるが、Mvhを発現する細胞はlin陰性・Sca-1陰性・c-kit陽性の分画にあり、接着する細胞分画にも存在していた!継続する3回の継代後にもOct4, Mvh, Dazl, Stella, Fragilis, Nobox遺伝子の発現は続き、培養期間は6週間にもなった.また、化学療法で不妊となったマウス卵巣に、骨髄移植により形態学的に卵胞が形成されるようになる.さらに遺伝的な不妊マウス(atm欠損マウス)に対しても骨髄移植は生殖細胞形成に有効である.末梢血細胞移植まで卵子形成を回復させる.Oct4-GFPマウスに由来する骨髄細胞から「分化」したとされる卵子は、免疫組織学的にもMvh, Nobox, GDF-9といった卵子マーカーを検出できたという報告である.
「体細胞から正常な精子や卵子を試験管内でつくることはできますか?」という質問はいつも自分自身に問いかけているものである.Tilly博士の発表は、体細胞は生体内で卵子になることを意味している.生体内ばかりでなく、試験管内においても精子や卵子を体細胞からつくりだすことができれば、精子や卵子のドナーにかかわる問題も解決する.可能性は二通りあり、自分自身の体細胞を単離してきて核移植し、胚盤胞まで発生させ、内部細胞塊をとり、胚性幹細胞を作製し、精子・卵子をつくる.もう一つの方法は、体細胞を核移植することなく、生殖細胞に分化転換させることである.体細胞からいっぺんに生殖細胞にすることはむずかしいであろうから、体細胞を一度脱分化させ、多能性幹細胞ないしは胚性幹細胞「様」とする.その後の手順は一つ目の方法と同じであり、二つ目の方法も体細胞の細胞質を卵子と同じようにすれば、生殖系列への分化が理論的には可能になる訳である.生殖系列における再生医療には,動物実験で用いることが可能な手法がヒトでは限定されてしまう.生殖細胞の場合は,Oct-3/4, TNAP, Vasaの転写調節領域を用いて単離できるが,ヒトにおける場合は遺伝子を導入することは全く許されない.故に、生殖細胞系列を同定するには、遺伝子の転写調節領域を用いた方法ではなく、表面抗原を同定することが極めて大事なこととなる.
ゲノムインプリンティングは父親由来のゲノム、あるいは母親由来のゲノムからのみ発現する遺伝子群の発現調節にかかわる機構であり、父親由来と母親由来のゲノムとの間に機能的な差異を与える.このゲノムインプリンティングは生殖細胞系列でリプログラムされ、精子は父親型、卵子は母親型にインプリントされている.受精から始まる個体の一生の期間を通じて、インプリント記憶は体細胞系列で消えることはない.一方、生殖細胞系列ではその個体の性別に応じて、男性であれば精子形成までに女性であれば卵子成熟の間に、新たなインプリントが生じる.体細胞から生殖細胞を形成するという考えは、クローン動物と同様の危惧がある.クローン動物で報告されているような巨大胎盤、胎仔奇形を生じる可能性があり、正確にゲノムインプリンティングが生じるという科学的根拠が提示されて初めて「体細胞→生殖細胞」の再生医療が社会に受け入れられる.
生殖細胞における再生医療においては,体細胞にはない厳密性が要求される.間葉系幹細胞を初めとする体細胞の場合では,心筋細胞、骨格筋細胞、骨細胞、軟骨細胞に分化する場合、ゲノムのエピジェネティクスは重要ではあるが厳密に制御されていなくとも心筋、骨格筋、骨、軟骨ができてしまえばよい.一方、生殖細胞では上記のように配偶子形成過程で細胞の供給源をとわず、正確なエピジェネティクスが保たれていることが必要となる.
Friday, February 16, 2007
月経血由来の間葉系幹細胞の多分化能
再生医療に利用できる組織、臓器、細胞供給源として、子宮、胎盤、臍帯、卵巣、卵管があげられる。手術の切除対象となった場合には、それらの組織に由来する細胞は貴重な再生医療の供給源となる。ここでは、月経血に由来する細胞が、再生医療に利用できることを議論したい。月経血に対する先入観があるかもしれないが、科学的事実に基づいた議論が大事であることを強調したい。
月経血由来細胞の分化には、他の細胞との比較において特徴がある。骨格筋への分化及び心筋細胞への分化が顕著に認められる。培養し、増殖させた月経血由来細胞は間葉系細胞と考えられ、その分化は骨髄由来の間質細胞または間葉系幹細胞のような骨、軟骨、脂肪、骨格筋、心臓、神経といった分化形質を同じと予想した。しかし、月経血に由来する細胞には、骨髄由来細胞と比較し、骨格筋、心筋への分化傾向が強い事実がある。これは、月経血由来細胞の発生学的な要因からなると考え、形態、発生の面を知ることが肝要である。
月経血由来細胞を利用して、再生医療を考えていることを伝えると2種類の反応が返ってくる。ひとつは、「培養できるの? 細菌や真菌のコンタミは?」という質問である。これは、抗生物質や抗真菌剤を用いれば全く問題ない。現実的には、抗生物質だけで十分である。細菌や真菌のコンタミを経験はない。二つめは、「えっ?月経血?再生医療に使用するのは嫌だな。」という反応である。月経血由来といっても、培養過程で得られる細胞は他の組織由来の細胞となんら変わることはない。見た目は少なくとも同じである。
利点は2つである。一つめは、月経血採取に痛みを伴わない点である。骨髄穿刺は、自身が受けた経験から言えば麻酔が効いているので強くはないが少なくともある程度の痛みを伴う。二つめは、月経血中に含まれる細胞数が極めて多いことである。後述するような子宮内膜が剥脱する訳であるから、ある程度の組織量が含まれており、塊と思われるところは全部組織であるととも考えられる。細胞数が多いことは、再生医療に用いる細胞が多く得られることを意味する。また、senescence(培養過程における不可逆的な分裂停止または細胞老化)に至るまでの分裂回数は25回を超える。細胞分裂速度も通常のウシ血清と培地(DMEM)で早く、培養自体が容易であることは大きな長所である。
月経血は、子宮内膜機能層から剥脱した組織・細胞を含む。排卵後、10日から12日すると、月経黄体が退化し、プロゲステロンの血中レベルが低下することにより、子宮内膜は退縮し、3-4mmの厚さとなる。これに続いて、らせん動脈の痙攣が起こる。らせん動脈は子宮内膜の機能層に分布するから、その痙攣は機能層の酸素欠乏を来たし、壊死を招く。血液は荒廃した血管壁から漏れだし、機能層をはがしおとす。これは融解酵素の働きによって自己融解して血液とともに排出され、月経となる。4日前後のあいだに、子宮内膜の機能層は完全に消失する。
分泌期の子宮内膜は、増殖期において厚みが増した内膜上皮の増大がさらに著しくなる。内膜は5-7 mmまで肥厚する。腺は腺細胞の増大、内腔の拡張、著しい蛇行を示し、その粘液性の分泌物は増加する。内膜の基質の細胞も大きくなり、組織液が増して組織全体が水腫の状態となる。組織化学的には多量のグリコーゲンの沈着が、上皮細胞、腺細胞、そして基質の間質細胞(線維細胞)の細胞質に見られる。これらの受精卵の着床に備えた組織は月経によって剥脱し、月経血に含まれると考えられる。繰り返しになるが、月経血には内膜上皮細胞、間質細胞、らせん動脈等の血管構成細胞と血液成分、炎症細胞成分であるリンパ球、顆粒球、形質細胞が含まれると考えられる。
内膜は単層円柱上皮でおおわれる。上皮細胞の大部分は、基底側に偏在する核と明るい細胞質をもつ円柱細胞であるが、一部に線毛細胞をまじえる。内膜は粘膜固有層であり、粘膜下層はない。内膜そのものである粘膜固有層は繊細な細網組織からなる。すなわち、太い膠原線維は乏しく、好銀性の細網線維が存在し、星状に突起を伸ばす間質細胞(線維芽細胞)がかなり密に散在する。月経前期になると炎症細胞浸潤が認められる。弾性線維は血管壁に限られる。内膜を上下に貫いて多数の管状腺が上皮から陥入し筋層に達する。この子宮腺は丈の高い明るい上皮細胞からなり、その核は強く基底側による。その分泌物は粘液性である。血管とリンパ管がかなり豊富にある。動脈には2系統が区別される。機能層(子宮内膜の表層部)に分布する動脈は、内膜中で特異ならせん状の走行をとるので、らせん動脈と呼ばれる。この動脈は性ホルモンの欠乏に際して強く痙攣を起こし、機能層の血行障害を来してその剥離すなわち月経を招来する。これに対して内膜の最深層の基底層と呼ばれる層にはらせん構造を示さない別系の動脈が分布するので、月経の際、剥離しない。
形態学的な側面と同時に、発生学的な側面から子宮内膜を考えることは大切である。なぜなら、発生学的な側面を考えることにより、子宮内膜に由来する細胞がどのような性質を有しているものかを類推することが可能である。結論から言えば、子宮内膜は臓側間葉組織に由来する。
女性の胚子は2組の生殖管を持っている。中腎傍管(ミューラー管)は女性の生殖器系の発生に重要な役割を果たす。発生第5週および第6週の間は、2組の生殖管は存在するが未分化な段階である。ミューラー管は性腺および中腎管の外側に発生し、女性生殖器系の発生に基本的役割をはたす。ミューラー管は中腎の外側面で、両側の中皮が縦走の陥入をすることにより形成される。これらの陥入部の縁は互いに近づき、癒合して、ミューラー管を形成する。ミューラー管の漏斗状の頭方端は、腹膜腔に開口している。ミューラー管は、中腎管と平行に、胚子の招来の骨盤領域に達するまで、尾胞に向かって走る。そこで、ミューラー管は中腎管の腹側を横切って、正中面で互いに接近して癒合し、Y字形の子宮腟原基を形成する。
卵巣をもつ胚子では、テストステロンがないため、中腎管は退行変性し、ミューラー管抑制物質がないため、ミューラー管が発育する。女性生殖器の発生は卵巣およびホルモンの存在に依存しない。ミューラー管は女性生殖管の大部分を形成する。ミューラー管の頭方の癒合部は子宮膣原基を形成し、ここから子宮および膣を生じる。繰り返すが、子宮内膜は隣接する臓側間葉組織に由来する。
月経血に含まれる細胞が多分化能を有している傍証として、子宮体部に由来する特徴的な腫瘍である癌肉腫/悪性ミューラー管混合腫瘍/中胚葉性混合腫瘍がある(参考文献3)。これらはいずれもひとつの腫瘍につけられた名称である。子宮体部はミューラー管に起源をもつので、多彩な組織所見を多分化能と結びつけた解釈により、ミューラー管混合腫瘍とも呼ばれる。これらの腫瘍には、扁平上皮成分、肉腫成分が含まれ、横紋筋、骨、軟骨といった種々の細胞が認められる。この腫瘍の存在も、月経血由来細胞が中胚葉幹細胞としての振る舞いをすることを示唆している様な気がしている。
細胞の分化能に依存して、疾患対象への可能性を探ることになる。月経血由来細胞は、骨格筋細胞および心筋細胞への分化効率が高いことより、筋ジストロフィーと虚血性心疾患/心筋症に対する細胞移植リソースとして考えることが可能である。驚くべきことに月経血由来細胞には、分化誘導をかけていない状態においてもディストロフィン蛋白質を発現している。また、筋ジストロフィーモデルマウスに移植することにより、宿主の骨格筋細胞と融合してマウス骨格筋にヒト・ディストロフィンの高い発現を生じることになる。筋ジストロフィーにおける細胞移植のリソースとして、月経血は有用であると信じているが、実際に医療として行うには大動物における実験をする必要があるかもしれない。対象疾患という訳ではないが、心筋細胞への高い分化効率を利用して、薬剤スクリーニング系に利用することが可能である。
月経血から細胞が採取できるって考えたのは、全くの偶然です。月経血の中には、虚血に陥った分泌期の子宮内膜細胞が含まれていないかなと思いついただけです。月経血中には、採取の過程で細菌、カビが混入することは間違いないだろうと予想していましたが、抗生物質を使用すれば解決する問題であります。これらの細胞が、骨髄、胎盤、臍帯、末梢血、脂肪といった別の組織に由来する細胞との異同を検討することは楽しい作業でした。なお、月経はヒトと一部のサルだけに見られる現象であるが、らせん動脈の出現もこれらの種に限られるそうです。
Tuesday, February 6, 2007
細胞の全能性と部分全能性
成人ヒトには,多くの分化した細胞が存在し,個体の維持のためにそれぞれが機能しています.大部分の細胞は分化しきっているため,その細胞の系列に分化することはあっても別の分化形質を示すことはありません.もちろん,血液細胞や消化管といった分裂の多い組織では未分化な幹細胞が存在し,いろいろな細胞になります.また,がん細胞はひとつの分化形質だけでなく,ふたつの分化形質を示したり,いくつかの分化形質を示すことがあります.でも,原則として,血液の細胞は神経の細胞になることはありませんし,心臓の細胞が肝臓の細胞になることはないのです.
その中でわたしが一番知りたいことは,どのよいなメカニズムで細胞はいろいろな細胞になる能力を維持しているのであろうかということです.いろいろな細胞というのは,心臓,脳(神経),肝臓,腎臓,肺,胃,骨,筋肉などの成人組織では,全ての細胞は受精卵に由来します.受精卵から全ての細胞ができるわけで,最初の受精卵は全ての細胞になることができるという全能性を有しているわけです.すべての細胞は免疫系の細胞を除けば全ての遺伝子のセットを有しており,さまざまな細胞になる潜在能力を持っています.
全能性を有している細胞は受精卵だけでなく,胎児性がん細胞や胎児性幹細胞があります.胎児性がん細胞は精巣ないし卵巣の胚細胞由来のがんであり,いろいろな細胞に分化することで知られています.がんでありながら,ひとつの細胞が神経,膵臓,気管,軟骨,胃,皮膚などの組織ができあがります.自分が経験した患者さんでは,精巣の胚細胞由来のがんが転移先でさまざまな組織に分化して治癒しました.胚細胞由来の細胞ですので,癌細胞でありながら受精卵としての特性,すなわち多分化能を有しています..多分化能といっても,「血液幹細胞が好中球,赤血球,巨核球になる多分化能」や「骨髄間質細胞が骨,心,脂肪になる多分化能」よりも,高次の多分化能を胎児性がん細胞は有しています.胚盤胞にこれらの細胞を注入すれば,体を構成する全ての細胞になれますから,多分化能と言うよりも全能性があると言ったほうが適切でしょう.
1. 細胞の多分化能ーいくつかの異なる細胞に分化するメカニズムー
ヒト胎児性癌細胞を培養し,分化誘導を行い,ひとつのコロニーをみてみると、必ず何種類かの細胞が含まれます.分化形質のマーカーを検討すると,デスミンを発現する筋肉細胞,ケラチンを発現する上皮細胞,ヒト絨毛ゴナドトロピンを産生する胎盤の栄養膜細胞など,上皮にも間葉系にも分化し,胎児にも胚外外胚葉にもなります.これらの事実は,マウスの胎児性がん細胞を胚盤胞に注入したところ,体中のさまざまな細胞に分化した事実と合致します.
では,一種類の細胞が何種類の細胞になる機構はどのようなことが考えられるでしょうか.幹細胞が異なる2種類の細胞に分裂する不均等分裂のさいの分子機構について簡単にふれます.ひとつの機構として考えられるのは,Notchなどの分子で知られている機構です.それは一つの細胞から隣接する細胞に対して別の細胞になるようなシグナル伝達が生じます.別の細胞になっていくその細胞は元の細胞に対して異なる細胞が平面上で均等に並んでいくことになります.ひとつはゲノムの修飾されかたが分裂した時にことなるような機構です.ゲノムの修飾とはクロマチンやメチル化状態を指し,分裂した細胞でその状態が異なれば遺伝子の発現も異なり別の細胞になると言う考えです.もうひとつは分裂する際に蛋白質なりmRNAなりが不均等に分配されることによって生じる不均等分裂です.細胞を構成する蛋白質の量が異っていれば,その時点で別の細胞と言うことができます.完全に別の細胞になるにはいくつかの蛋白質でそのような不均等な分布をするか転写因子が少しの量でも異なった量の分布をすれば別の細胞になってしまいます.
ひとつの細胞が何種類かの細胞になるのに不均等分裂を考えない機構も存在します.誘導剤の濃度の違いによって,異なる細胞ができあがる機構です.既に知られているものとしては,レチノイン酸がありますし, TGF-betaファミリーのひとつであるactivinも濃度によって生じる分化形質がことなってきます.レチノイン酸の受容体は細胞質に存在しactivinの受容体は細胞膜にあり違っていますが,最終的に発現が誘導されるホメオボックス遺伝子によってできあがる細胞の種類が異なってくるわけです.
もうひとつの考え方は,可能性は高いのですが少々むずかしいものです.細胞の状態が決められて誘導剤の濃度が決められても,できあがる細胞は違ってくるという確率論的な考えです.この考えでいくと発生はでたらめになり,ヒトと言う個体はできあがってこないような印象を受けますがそうではありません.できあがりは決定されているにもかかわらず(deterministic),その過程はかなりおおざっぱな確率に依存する(stochastic).その細胞の確率的な分化も元をただせば遺伝子の発現に依存するので,その遺伝子の発現の量が確率的に決まっているというアイデアであります.より具体的に言えば,ひとつの細胞には2コピーの遺伝子がありますのでそれらが確率的に調節を受けているわけです.しつこいけれども個々の細胞の遺伝子発現は確率的でも,ある一定の条件(培養状態,誘導剤の濃度)がきまれば全体としてはその発現量は決まってしまいます.
最後に考えなくてはならない可能性は,幹細胞と考えられている細胞が,元々,いくつかの種類の前駆細胞を含有していることです.これは,幹細胞の概念から外れますが,しばしば培養過程での問題そして生体内で幹細胞が存在しているか否かを検討する際に必ず問題となりますが,実験的に証明することが困難なことが多く見うけられます.誘導剤を処理することで,いくつかの前駆体からさまざまな細胞が出現し,あたかも幹細胞が存在しているかのようにみえます.
2. 全能性と部分全能性ー多分化能が失われていく機構についてー.
血液幹細胞はいろいろな種類の細胞,すなわち赤芽球系,顆粒球系,巨核球系の細胞に分化します.また,骨髄間質細胞は心臓,脂肪,骨,腱になります.しかし,一般に血液幹細胞は骨,腱にならないし,骨髄間質細胞は表皮,血液細胞になりません.これらの細胞は部分的に全能性を有していると考えられます.一部の例外的な現象は報告されているが,部分全能性を有している細胞は元々の胚葉を越えて分化することはありません.骨髄間質細胞が基本的に神経や血液細胞になることができない仕組みはどのようなものなのでしょうか.骨髄間質細胞が有する部分全能性の「部分」である機構はいずれに存在するのでしょうか.このことは,多分化能(multipoent)または部分全能性を有している細胞と,一種類の細胞にしか分化できない (unipotent)細胞との違いとまったく同じです.最初の時点,すなわち受精卵の時点ではあらゆる細胞になれます.一方,発生が進むと細胞は多分化能を失っていき,ある限られた細胞にしか分化できなくなります.結論から言えば,多分化能を有する細胞からある系統にしか分化できない細胞への移行は,細胞の潜在性の消失または遺伝子発現の制限にほかなりません.
遺伝子の発現が制御されてしまうメカニズムかが問題です.遺伝子の発現は転写因子によって調節されています.また,転写因子の発現自体も転写因子によって調節されており,ある分化状態では定常状態を保ってはいるが複雑な遺伝子発現のネットワークが存在しています.そのネットワークの維持には自由な遺伝子発現が必要不可欠です.その分化能の制限に繋がる遺伝子発現の制限の機構で知られているものはDNAのメチル化とクロマチン構造があります.DNAのメチル化が多くなれば遺伝子発現は制限されます.クロマチン構造が高次になれば,遺伝子発現は制約を受けるわけです.遺伝子の発現が制限されてしまえば,分化能も制限されてしまい,限られた細胞にしかなることができないことになります.
例外として,クローン羊では分化した細胞の核に全能性があることを示されました.ここで示唆したように分化した細胞には全能性はないので注目され,発見者は賞賛されました.同様に,部分全能性を有する骨髄間質細胞が胎児性がん細胞のように全能性を有するようになるのでしょうか.分化した細胞に,脱分化または先祖帰りが生じなくてはなりません.クローン羊の場合は発生過程を必要としましたが,発生を介さないでさまざまな細胞を骨髄間質細胞から作成する(細胞転換)ことが思うままにできれば,骨髄間質細胞は「細胞治療」に使用することができる大変よいソースとなります.
註)多分化能を示す骨髄間質細胞中の間葉系幹細胞の割合も年齢と共に減少してきます(Science April 2, 1999).
新生児 1/10,000
10代 1/100,000
35歳 1/250,000
50歳 1/400,000
80歳 1/2,000,000
Monday, February 5, 2007
尿路結石になって感じたこと
人体解剖していると,尿路結石を見つけることは多い.「ああ,石があった.」と以前は思っていただけだが今は違う.自分が尿路結石になって苦しんでいる.尿路結石の問題点は痛いことだ.いろいろな事件が人生にはあったが,尿路結石は数少ない人生感を変えてくれた事件のひとつだ.ここで,紹介したいのは腎結石に関する自分の経験談である.家庭の医学には書いていないこともあるので,尿路結石で困っている方には貴重な内容である.専門家ではないのでニュアンスに間違いがあるかもしれないし、多少、個人差があるかもしれないが、私の知り合いの4人の尿路結石を持つ人たちの意見も参考にしているので自分では正しいと思っている。
「痛み」
尿路結石には2種類の痛みがある.そんなことは,医者も教えてくれないし,本にも書いていない.「むずがゆいような不快な痛み」と「激痛(げきつう)」である.どちらも困るが,やはり本当に困るのは「激痛」の方である.他の痛みとの違いは,「たいへん」痛いことと,運が悪いと「長く」痛いことである.
「激痛に襲われた時の対応方法」
1.痛み止め
痛み止めの薬を持っているかどうかは重要な意味を持っている.実際に痛くなると痛み止めは何も効かないどころか,胃の調子を明らかに悪くする.しかし,直接的な効果よりも持っているという安心感は大きい.逆に痛み止めを持っていないと頼るものがなくなり,ちょっとした絶望感を味わう.
2.局所を押す.
研究室にいる循環器内科の先生に聞いたのだが,背中を強く押すと激痛が止まるという.実際,半信半疑であったが,激痛のあった時にさっそく試してみた.驚いたことに痛みは消えた.場所を決めて,そこにマジックインクで印をつけて,家族に押してもらう.痛みが取れるのはだいたい10分くらいであるが,少しの間は助かる.何度でも押せば痛みはとれるが,押され過ぎると筋肉に痛みが来てしまうために,嬉しくない(こちらの背部の筋肉の痛みが優位になってしまう).押す場所は,ちょうど痛みが最も強いと思われるところである.激痛の時は,背中全体が痛むが何とか場所は分かるし,一度わかれば油性ペンでマークできる.
3.水を飲む
水を飲むことが私が一番薦める方法である.「水を飲む」というのは,痛みがないときに飲むだけでなく,痛みが出てからでも効果があると思う.水と一緒にビールを飲むのも効果がありそうだが試したことはない.
4.「死なないし,必ず8時間以内には痛みがとまる」ことを知る
これは治療法ではないが,知っていれば元気がでる.尿路結石の場合,おおげさではなく,大変痛みが強いために,絶望感にさらされることがある.そのような時にこの痛みでは死なないし,8時間以内には必ず止まるということを知っているのと知らないのとでは大きな違いがある.ある時間がたてばなにごともなかったように,痛みがなくなる.
知り合いのかたから漢方薬をいただいた.どうも利尿作用があるものの結石が落ちてくることもなく,ぼくの場合はあまり役にはたっていない.
「お医者様について知っておくといいこと」
1.尿路結石の専門家は,泌尿器科である
2.泌尿器科には,尿路結石の患者が多い(風邪みたいなもの)
3.泌尿器科の先生は「患者の痛み」に対する対処に対し,冷静です.ちなみに妻の出産に立ち会って思ったことは,産科の先生も冷静です.
4.救急車を呼んだ方がいいかどうかは,結構判断がむずかしい.痛みが強いので救急車を呼びたくなる.しかし,痛みは強いがある時間経過すると痛みがおさまる.もちろん,その痛みが尿路結石と分かっている場合である.自分は呼んだことがないが、友人の医師は米国でも救急車を呼んだ。
泌尿器科の先生から,「激痛の前に予兆がくるので,そのときに痛み止めを飲むように.痛くなってからは効かない.」と言われた.その通りで,痛みがきてからの痛み止めはまったく効かない.わたしがすすめるのは,予兆があったら水をたっぷり飲むことである.普段はあんまり水を飲むことができなくともこんなときは,飲めるものである.逆に,水分の摂取が足りないと尿が少なくなり,結石が尿管内でがっちりとはまり,痛みを誘発するのではないかと考えている.
「血尿」
おちんちんのさきから,赤いおしっこが出でくると結構びっくりする.まず,大変心配する.まず,頭にうかぶのは「がん」ではないかと.でているおっしこの色は分からないのだが,便器にたまるおしっこのいろはワインレッドである.何しろ驚くので医者に行った方がいいが,結石だと分かっている場合は,やはり水を飲むしかない.
「水を飲め」と言われたって,そんなに飲めるもんじゃない.
どんな教科書にも書いてる治療のひとつに水を飲めとある.どれだけ飲んだらいいのかさっぱり分からないではない.英語の内科の教科書には3リットル飲めと書いてある.なかなか3リットルなんて飲めるもんじゃない.コンビニエンスストアに2リットルのミネラル水が売っているので試してみるとみるとわかる.季節にもよるが何の味もしない水を飲むのは苦行である.
「結論」
私が一番薦めるのは,水を飲むだけである.水を飲むのは普段からだが,痛くなっても遅くないから水を飲む.痛み止めとお医者様は安心感のためにのみ存在する.自分の場合はこれしかない.石を破壊するとか,石を溶解するとか,いろいろとあるが,尿路結石との戦いは痛みとの戦いであると理解したい.水分が足りなくなるような状態は,危険な状態である.夜寝た時の朝とか,酒を飲んだ後とかは危険な状態である.むずがゆいような痛みに対して,お酒は即効性はあるが,結果として水分をなくすので,要注意だ.
痛み止めは飲み過ぎると腹痛(胃炎)を生じるし、この痛みも半端ではないので注意しよう。口内炎(アフタ)ができることもある。
Sunday, February 4, 2007
「夜泣きの子供を前にして、夜中途方にくれることのある男性の方々のために」
3ヶ月を過ぎて,1歳までまでの赤ん坊の夜泣きはすざましいものがある.よくもここまで泣くことができるなというくらい泣く.時々,裏声になっていたりしてせつなくきこえてくる.あまりにせつない声をだすので逆に義母や妹は笑い出すくらいだ.よくみると声だけで涙を流していないことも多い.
ここでは,どうやったらこの夜泣きをしないようになるのかをいくつかの経験から紹介したい.夜泣きをやめさせるというのは同時に夜寝かしつける技術とも関係しており,一回おぼえたらやめられない.もっとも,多くの日本にいる親は一回の子育てで終わるが,その一回だって大変だ.夜寝かしつけるには,寝るまで添い寝をしてやって,本を読んであげるという親を知っている.それはそれで楽しいのだろうけど,毎日の義務であって疲れている時にはつらいし,添い寝をしないとねてくれない.ここに紹介する父親のための方法を知れば,子供の部屋の布団の中に子供をいれて後はテレビのある部屋に戻ればいい.
一言でいえば子供を自立させることである.別な言葉で言えばあきらめてもらうことである.親を頼らず,寝る時はひとりであることを自覚してもらう.
夜泣きの担当はだいたいどの家も母親であるが,これは基本的に間違いである.社会的に問題があると言うのではなく,夜泣きをやめさせるのに母親の出現はまず逆効果である.父親がやるべきである.これは社会的に父親がやるべきとか,生物学的に母親がやるべきであるとかいう問題ではなく,方法として父親がやった方が効果が高い.これは,父親が元来育児に参加する傾向が少ないからである.逆に育児によく参加する父親ではここに紹介する方法は効果がない.でも今の日本のビジネスマンは大部分,育児に参加していないでしょうから,過半数の方に役に立つ.
まず,大事なことは,赤ん坊は別の部屋に寝てもらうことである.できれば両親の生活の音が聞こえない場所がいい.そんな部屋なんてないと言う方(1Kの住居にすんでいたり,もうひとつの部屋がとれない場合は,残念ながらあきらめることになります.ごめんなさい.)別の部屋に連れていってそこに寝かせて,親は自分の部屋に戻って下さい.さあ,これからがたいへんである.あなたの赤ん坊は100%泣く.泣くなんて生やさしいものではなく,泣き叫ぶ.全力で泣くのでその声は家中にひびきます.ここからがあなたの出番である.泣きさけんだって死ぬことはないので,部屋のドアの隙間からのぞくだけで相手をしてはいけない。大事なのは、「忍耐」であってほかにない。
出番と言っても,起きるだけである.おきて様子を見ます。泣いているときがどのような状態かを見極め、問題がなさそうであれば、ほっておく。うんちのときは、とりかえてあげたほうがいい。お腹がすいてそうなときは、ほっておく。1時間から2時間泣き続けると、諦めてねる。または、あきらめて静かになる。それまで、親はがまんする。がまんできるかどうか、それがむずかしい。本当に辛い。しかし、1週間我慢すると、赤ん坊は夜泣きも全くしなくなり、お乳も要求しなくなり、朝までぐっすり寝る。一週間もやってられないかもしれないが、実際は3日目くらいから楽になる。
がまんすると言っても、生やさしいものではない。赤ん坊がはいはいできるようになっていると扉の所までやってきて、扉をどんどんとたたく。それをある意味で無視する訳だから、自分が鬼であるかのような気がする。しかし、良く考えれば、赤ん坊だって規則正しい生活で快眠できれば、最高である。優しさは、ここでは逆効果と思っていただいて間違いない。
この方法は生後どのくらいから、有効か。結構早い段階から、有効であり、生後3週間から行う人もいる。私どもは始めるのがおそいので(6ヶ月くらい)、始めるときはたいへんである。この件に関しては、妻とも意見が異なる。この方法がたいへん有効であり、赤ん坊の快眠に必要であることを認めているくせに、夜泣きをするとお乳を与えてしまう。一回お乳を与えると、かなりの確率で次の日も夜泣きをする。妻は疲れていると、夜中の育児は夫の仕事だと言って、寝てしまう。誠にいいかげんなことだ。
現在、4人目の子育てを妻がしているが、これが最後の子育ての予定である。いずれもこの方法でどの子供も添い寝はしない。布団の中に赤ん坊を入れて、後は自分の部屋へ戻ればいい。赤ん坊は泣きもせず、おきていることもあるが、ちょっとの時間でねてしまう。赤ん坊が慣れてしまうと、父親である私の顔を見ると、寝にいくものと決めてかかるような態度を示す。習慣とはおそろしい。母親の顔を見るとお乳よこせだの、あやせだの、抱けだの、泣き始める。赤ん坊は相手を見て態度をかえる。
ここに紹介した方法は,気がついた方がいるかもしれないがオリジナルではない.すでに多くの場所でかかれているし,米国西海岸で半分は教わって来た技術である.
妻がこの方法は女性には不人気になると予言する。それなら、そうでいい。興味がある人でけが試してみればよい。昼間働いて、夜中に赤ん坊に泣かれた経験がある方は、わかるはずだ。「うずきゅうめいがん」で夜泣きが治るならそれはそれでいい。若い父親の福音となると信ずる。
僕自身も一人ッ子で兄弟がなく,添い寝を要求し,親か祖父母がいなければ,子供でも夜中の3時まで寝ることができないこともあった.子供は本来は眠たいのに,ひとりだと寝ることができないとは悲しい.子供は結構,一日中遊んで疲れているんだ.
Friday, February 2, 2007
生物学的世界観
昔に勤務しておった大学のカリキュラム委員会で委員長より短い質問をされました。「生物学的世界観」という言葉を、知っているかい。突然の質問でございましたので、その場では答える術がございませんでした。何も頭のなかに浮かびません。「勉強しておきます(実際は聞いてしらべて参ります)」と申し上げ、へたなことを言い委員会に迷惑をかけないようにいたしました。その後は、そのことが少し気になっていました。「もしかしたら、経済学部や法学部を卒業した仲間と私は別の世界観を持っているのではないか。もしかしたら、わたしのそれは、大学時代や卒後の教育によって、つくられているのではないか。」
最近、尿路結石で苦しんでいます。知り合いに頼み、いろいろと面倒をみてもらっています。痛みは真夜中に始まり朝まで続きます。あまりに痛みが強く、意識を一時的にでも落としてもらいたいと発作中は思います。強い痛みはこれでもかと襲ってきますし、痛みで意識は朝方まで明瞭です。そんな痛みの苦しみの中で思うことのひとつに、おしっこの管の細さがあります。管の細さを怨んでいます。人体解剖を職業としているので、どこらへんに石がつまっていて、つまっている部分の前の管がひろがって、その管がけいれんするのを感じます。石が、管の表面をけずって粘膜が剥げていく絵が頭の中でひろがっています。好中球やリンパ球が集まってきます。そんなに痛いときにですら、絵が浮かんでくる余裕があります。逆に絵が浮かんでくることで、痛みが増強しているかもしれません。
高校の時の友人に野球の選手がいます。彼は東京大学の法学部に在学中で、尿路結石をもっています。電話でお互いの尿路結石の話を夜半過ぎに熱心に話します。「尿路結石は痛いよな。」「尿は血で真っ赤だよな。」共通の話題にいつも盛り上がり、慰めあっています。でもよく話してみると、彼と私とでは全然別のイメージで話していることがわかりました。痛いことはいっしょです。しかし、彼は尿路結石の色や大きさやまわりの組織のことについて、何も思っていないでしょう。痛みから、尿路結石を概念として捉えているかもしれません。または、「石」という字面からイメージができているかもしれません。細い尿管とそこにつまっている扁平な石とそして痙攣する尿管がアニメーションのようにうかんできて、このことを怨むことは私だけかもしれません。ついでにいえば、その私がつくるイメージは、私が自ら解剖したエイズの患者さんのおなかの中の様子からつくられています。東大法学部の彼と私とでは、全然別のイメージで尿管の石をとらえているのかもしれません。もっと、よく話せばわかるかもしれませんが、きっとそうです。
かつて一緒に住んでいた友人は、泌尿器科の医者で石の治療を専門にやっています。私の主治医です。本人は石を持っていません。彼は尿路結石をどう概念づけているのでしょうか。彼は彼で私とは全く別のイメージを持っていて、その豊富なイメージの中で暮らしているんでしょう。
世界観なんてたいそうな言葉は、鼻につきます。でも、僕ら3人は石とともに生きているし、石のことはなんらかのかたちで一日に一回は頭のなかにうかんできます。同じ石でも、3人とも別のことをイメージづくりながら生きる。
こんなつまらぬ世界観ですら大学で受けた教育やその後の経験や勉強で影響を受けています。もしかしたら、生活の全てが私の持っている「生物学的世界観」のフィルターでとおしてみているかもしれません。私が学校の講義は「生物学的世界観」を与えていると考えてみました。私の世界観を学生の諸君におしつけていると考えてみました。