Saturday, February 24, 2007

幹細胞と受精の研究と再生医療をがんばる

 研究室は昔は4階にあり、夕日に当たる新宿副都心、夜の東京タワーを眺めることができ、それらを見ることができなくなったのは残念である.一方、新しい研究室は7階となり、富士山を大きく眺めることができ、異常気象でも研究室内の室温が37度を越えることがなくなることは嬉しい.性格の優しい留学生が「暑い」と研究室内で少しでも涼しい席を求めて移動するのも、培養器の外に出した細胞に熱ショックがかかる問題も昔の話である.研究所の引っ越しに伴い、再生医療にかかわるセルプロセッシング・ルームも新しい研究所に移動することになる.

 セルプロセッシング・ルームは再生医療を念頭にした細胞培養室であり、東京、京都、神戸、名古屋に設立されている.今の研究所には既にGMP基準に準拠した施設が存在しており、治療プロトコールの倫理申請に向けて細胞培養のシミュレーションが繰り返されている.異動してきた私自身にとってこの施設は誠にありがたいものである.以前所属した大学には存在していなかったからである.医療を前提とした場合はこの施設は必要不可欠であり、逆のことを言えばセルプロセッシング・センターなしでは、細胞培養を伴う再生医療を目指したとしても研究レベルにとどまることになる.再生医療は発生学・材料工学・細胞生物学の発展に伴って進展し、細胞を薬と見なして行う新たな試みであり、増殖因子・分化誘導因子、マトリックス、生分解性ポリマーならびに幹細胞を上手に統合することで組織を再生する.用いる細胞は,さまざまなレベルの幹細胞が考えられ,大きく胚性幹細胞と成体幹細胞に分類される.胚性幹細胞は胚盤胞の内部細胞塊より樹立する細胞株であり,驚くべきことに全身の組織や細胞に分化する能力を維持しており,全能性を有している.一方、成体幹細胞は,各臓器,組織に存在する幹細胞であり,限られた範囲の中で多分化能を示し,部分全能性を有している.組織内には、その組織における特定の働きを担う、すでに分化を終えた細胞が多数存在しており、中にはそうした特定の働きを持つ細胞へと分化する前の未分化細胞、すなわち幹細胞が混じって存在している。成体幹細胞は、自らと同じ細胞を複製し、製造する能力を持つとともに、分化によって、それが存在していた組織内のあらゆる個別細胞を作り出すことができる。特定の組織に分化することがわかっているためにすでに多くの治療に生かされている.成体幹細胞は、骨髄や血液、目の角膜や網膜、肝臓、皮膚などで見つかっており、脳や心臓としった従来は幹細胞が存在しないとされた臓器でも発見されている。また、骨髄の中にある間葉幹細胞と呼ばれる幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、骨格筋、心筋、神経に分化する。自らの体からとり出した成体幹細胞の治療への活用は免疫的な拒絶反応の問題を心配する必要がなく現実的である。

 この現実的なアプローチを疾患に対して早期実現化するためには、ヒト細胞を用いた基盤研究が必要不可欠であり、ヒト細胞を用いるには倫理委員会の承認を受けることが要求される.白浜で開かれた研究会で、朝日新聞の記者が「再生医療は、さまざまな先端医療を進める上での手本となるようなプロセスを経るべきである.」と社会への透明性・公開性の確保を指摘したことを思い出す.倫理委員会の議論は公開されるべきであり、倫理申請書類は丁寧に審査される.医療の過程は公開されるべきであり、論文として詳細が出版される前にも発表が必要である.細胞が薬として扱われるために、ソフトの面でもGMPに準拠した手続きが必要となる.「夢の医療」とよばれた再生医療が、今は現実に書類の山の中にいるところまできたことは嬉しいかぎりである.新しい研究所の横には、庭園内に小川のようなドジョウもいる流れがあり、その両岸にはコクマザサ、セリ、柳、スイセン,ヒガンバナ、クワイ、ミソハギ、ネコジャラシが植えられている.研究室には受精の研究で世界の最先端をいく者もおる.がんばらなくてはいけない.


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