Sunday, October 24, 2010

研究室は7階にある

 研究室は7階にある。高いところにあるので、いつもは、きれいな世田谷の町を見ることができる。ウルトラマンをうんだ円谷プロ、ゴジラをうんだ東宝スタジオ、NHK技術研究所、民放のTMCスタジオをながめることができる。遠くに、富士山も見える。「夢の架け橋」と私たちが呼んでいる、病院と研究所の連絡路が今は台風のせいで、水浸しになっている。この連絡路はガラス張りの屋根と壁があり、この「夢の架け橋」と呼んでいる通路を介して、子どもたちの病気を治すために、再生医療のための細胞を研究所から病院に届けることになる。  

 再生医療に供する細胞は、セルプロセッシング・ルームで培養される。セルプロセッシング・ルームは再生医療を念頭にした細胞培養室であり、国立成育医療センター研究所には既にGMP基準に準拠した施設が存在し、治療プロトコールの倫理申請に向けて細胞培養のシミュレーションが繰り返されている.成育医療センター研究所に4年前に異動した私自身にとってこの施設は誠にありがたい.医療を前提とした場合はこの施設は必要不可欠であり、逆のことを言えばセルプロセッシング・センターなしでは、細胞培養を伴う再生医療を目指したとしても研究レベルにとどまることになる.再生医療は発生学・材料工学・細胞生物学の発展に伴って進展し、細胞を薬と見なして行う新たな試みであり、増殖因子・分化誘導因子、マトリックス、生分解性ポリマーならびに幹細胞を上手に統合することで組織を再生する.用いる細胞は,大きく胚性幹細胞と成体幹細胞に分類される.胚性幹細胞は胚盤胞の内部細胞塊より樹立する細胞株であり,驚くべきことに全身の組織や細胞に分化する能力を維持しており,全能性を有しており、基礎研究を行うことが現在許されている。一方、成体幹細胞は,各臓器,組織に存在する幹細胞であり,限られた範囲の中で多分化能を示し,部分全能性を有している.組織内には、その組織における特定の働きを担う、すでに分化を終えた細胞が多数存在しており、中にはそうした特定の働きを持つ細胞へと分化する前の未分化細胞、すなわち幹細胞が混じって存在している。成体幹細胞は、自らと同じ細胞を複製し、製造する能力を持つとともに、分化によって、それが存在していた組織内のあらゆる個別細胞を作り出すことができる。特定の組織に分化することがわかっているためにすでに多くの治療に生かされている.成体幹細胞は、骨髄や血液、目の角膜や網膜、肝臓、皮膚などで見つかっており、脳や心臓といった従来は幹細胞が存在しないとされた臓器でも発見されている。また、骨髄の中にある間葉系幹細胞と呼ばれる幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、骨格筋、心筋、神経に分化する(http://www.nch.go.jp/reproduction)。自らの体からとり出した成体幹細胞の治療への活用は免疫的な拒絶反応の問題を心配する必要がなく現実的である。「夢の医療」とよばれた再生医療が、今は現実の書類の山の中にいるところまできたことは嬉しいかぎりである.

 研究所に隣接する病院は、とてもきれいな施設である。庭園内に小川のようなドジョウもいる流れがあり、その両岸にはコクマザサ、セリ、柳、スイセン,ヒガンバナ、クワイ、ミソハギ、ネコジャラシが植えられている.夏休みに間に子どもたちが放したザリガニや、祭りの金魚や田舎でとってきた魚で池もいっぱいになっている。もう、夜になると虫の音がうるさいくらいである。研究所の後ろ側には、UFOが着陸できるような芝生の丸い敷地に、トランスレーショナル研究・臨床研究を推進する場がある。散歩にぴったりの位置に、成城学園と二子玉川があり、お買い物も楽しめるし、砧公園が隣にある。一度、ウェブサイト(http://www.ncchd.go.jp/English/Englishtop.htm)を訪れるだけじゃなくて、お休みの日に実際に来てみても面白い。



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