再生医療を推進するモデルはあるのかという問に対する答は、1.造血幹細胞移植(骨髄移植、臍帯血移植、末梢血移植)と 2. 生殖医療である。これは私の答えであるが、設問の是非はともかく、こんなものだろうと思っている。そこで、業界誌に自分の考えを記載したのが下の文章である。自分では自信作だったのに、あまり反響がない。ブログでも紹介している「iPS細胞におけるエピゲノム動態」は自信作でもあり反響もあった。業界誌に掲載した文章をそのままコピーペースとした。やはり、ブログで掲載しても反響ないのだろうかね。
社会から暖かく迎えられる形で再生医療を推進したいといつも思っています。再生医療を考えるときに、自分自身に対し再生医療を理解させるために他の医療と比較しています。
造血幹細胞移植は細胞移植そのものであり、現在の再生医療のお手本であります。再生医療と言っても問題ないのでしょうが、再生医療が将来の医療として紹介された時点で既に造血幹細胞移植が一般的な医療として定着していたことより、再生医療の範囲に入らなかったというところがあるのでしょう。実際に骨髄細胞を臓器・組織に直接注入したり、静注したりする一部の対象疾患に対しては再生医療としての扱いがなされています。造血幹細胞移植は骨髄移植から始まり40年を超える歴史があり、移植不全や移植片対宿主病という大きな問題があるにもかかわらず、一般の医療として定着し、この10年で臍帯血幹細胞移植そして末梢血幹細胞移植に発展し、さらに安全性の高い移植法が開発され続けています。この造血幹細胞移植では細胞はお薬としての扱いがなされていませんが、再生医療では一般に細胞は生物製剤として扱われ薬価がついていくことになります。細胞が生物製剤として扱われることに私はとてもポジティブにとらえており、その理由はその方が経済的な面から再生医療が進むと思っています。繰り返せば、細胞がお薬として扱われ対価が支払われることが健全だと思っています。もうひとつ気になっていることは、造血幹細胞移植では通常は同種なので免疫抑制剤を使用する点です。国立成育医療研究センターにて臓器移植を行っている方にお聞きすると免疫抑制剤を使用していても普通と変わらないと生活をおくることができるとのことですが、免疫抑制剤を使用するような臓器・組織移植や骨髄移植の対象疾患を見ると、相当な病気すなわち致死性疾患に適応されると考えた方が早いように思えます。造血幹細胞移植では、白血病を初めとした悪性腫瘍、リソソーム蓄積症、表皮水疱症といった疾病が対象になっています。免疫抑制剤を使用するわけであるから、免疫抑制剤による不利益を上回る利益がなくてはならないのでしょう。骨髄移植ほどの免疫抑制剤は使用しないだろうし、骨髄移植での移植片対宿主病といった副作用は細胞移植では存在しませんが、それでも同種の再生医療は重篤な疾患に限られるとういう考えが正しいのでしょう。少なくとも同種の再生医療を開始する当初は致死性疾患が対象疾患といってもいいかもしれません。
再生医療の参考となるもうひとつの医療として、生殖補助医療を勉強しています。今ではクリニックを含めて多くの医療施設で受けられる生殖補助医療ですが、我が国では1983年に一人目の体外受精児が生まれ、1993年には顕微授精が始まりました。意外なほど歴史は浅く実験的医療と言われているにもかかわらず、既に生殖補助医療で生まれた赤ん坊の数は20万人であり、毎年2万人が生まれており、50人にひとりの割合です。感覚的に言えば、小学校のクラスにひとりは生殖補助医療で生まれた子どもがいるわけです。世界的には200万人程度が生まれています。受精胚は人間そのものであることより再生医療とは言われませんが、お母様から卵子を、お父様から精子を採取し、生体外での受精・培養、母体への移植という過程は再生医療とたいへん良く似ています。畜産繁殖での技術を人間に応用したレベルの高い技術であるものの、安全性が確認されている訳ではなく、現在もコホート研究が行われ、その安全性検証が行われています。受精卵の凍結保存技術のみならず、現在は卵子及び卵巣の凍結保存技術が開発されつつあり、凍結技術のみならず技術革新は眼を見張るものがあります。また、不妊治療助成として、都道府県より1年に1回15万円、2回までとし、通算5年支給されています。
骨髄移植も生殖補助医療も社会に貢献したことよりノーベル賞がその開発者に授与されていますが、自分の子供が成長する頃、再生医療が同じように発展し、社会に暖かく迎えられていることを願っています。
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