3.マーカー
クローナルな増殖を示す間葉系幹細胞のマーカーとして、STRO-1, MCAM(MUC 18/ CD 146)、CD105が知られている。造血細胞と異なり、これらのマーカーでソートされないのは訳がある。それは、造血細胞のように個々の細胞がバラバラになっていないだけではない。間葉系幹細胞は、プラスチック皿の表面で増殖する場合は、ソートしたのと全く同じようなマーカーを発現するようになる。接着する段階では、雑多な細胞集団である一方、増殖後は現実的にSTRO-1 (文献8), MCAM(文献9), CD105でソートしたのと同じように均一な細胞集団となり、フローサイトメトリーでひとつのピークとなる。また、マーカーに関しての疑問として、1.これらのマーカーを持った細胞は、生体内でどの部分に存在しているかも、解決されていない、2.間葉系幹細胞が移植した後にその運命はどうなるのか、自己複製と言った観点からも追跡実験されたことがない。骨髄においては、MCAMは骨髄間質(Adventitial reticular cells)をマークする(文献9)。他の組織において、MCAMはペリサイト(周皮細胞)を認識する。多くの組織に存在するペリサイトは骨髄における間葉系幹細胞に相当するのであろうが、非骨髄組織におけるCFU-Fが実際にペリサイトに相当するかどうかは証明する必要がある。ペリサイト生物学が非造血組織における幹細胞であるかどうかは興味深い。
4.多様な事実から導かれる統一モデル
骨髄組織の間葉系幹細胞の役割は二つある。ひとつは、造血細胞への支持であり、もうひとつは骨髄内の形態学的な細網内皮ネットワークを含めた発生、維持である。その主な役割を担っているのはペリサイトであり、ペリサイトから種々の細胞が供給されるという考え方がある(文献10, 11)。骨髄以外の別の組織においても、ペリサイトが同様の機能、すなわち多分化能と自己複製を有しているという仮説がある。また、各組織においては、そのような幹細胞活性を有しているものの元の組織の特徴を保持しているために、骨格筋由来は骨格筋への分化傾向が見られ、脂肪由来では脂肪細胞への分化傾向が見られるといった組織特性の説明がなされている。生体内において多分化能を示さないのはその分化形質の組織特異性によるもので、生体外においては組織特異性が失われることにより幹細胞性が強調されることになる。
骨髄内における生理的な役割とは全く別に、生体外で増殖させた骨髄由来間葉系幹細胞が、傷害を受けた骨髄以外の組織を修復するのに役立っているという報告がある(文献12)。生体内において、間葉系幹細胞が移植された組織の分化形質を示していないことより、その機能はパラクライン効果によるものと推測されている。それは骨髄において造血細胞に対して支持能があるのと同じように移植された組織に対し、パラクライン効果があるという考えである。また、 間葉系幹細胞・骨髄間質細胞が、免疫を修飾する作用があるという論文が多く出版されている(文献13-15)。重症急性GvHDの治療について欧米で臨床研究・治験が始まっている。免疫抑制のメカニズムについてはまだはっきりしない点も多いが、間葉系幹細胞から産生されるNOと液性因子によってT細胞が抑制されるメカニズムがひとつの可能性として示された。GvHDにおいて、活性化されたT細胞がインターフェロンγ、腫瘍壊死因子α、インターロイキン-1αとインターロイキン-1βを産生し、間葉系幹細胞に作用する。間葉系幹細胞から種々の液性因子が産生され、T細胞を間葉系幹細胞の近傍に遊走させる。間葉系幹細胞の近よったT細胞はNOにより、Stat5のリン酸化抑制を介して、増殖が抑制される。結果として、2004年のLancetに掲載された報告(文献16)に関するメカニズムが少しずつ明らかになってきている。現在、ヨーロッパ血液・骨髄移植グループ(EBMT)の第II相臨床試験として、2008年に報告した(文献17)。奏功率は70%と高く、ステロイド抵抗性のGvHDに対する治療選択肢のひとつのしてなりえると考えられ、間葉系幹細胞を薬剤の代わりに使用している点で、新しい治療法である。
心臓以外の間葉系幹細胞から心筋細胞ができるという論文は数多く発表されている。その一方、心筋内に存在する心筋前駆細胞の議論も多く存在する。心筋前駆細胞は、lineage陰性であり、c-kit陽性であること、Sca-1が陽性であること、またFlk-1陽性であること、isl1陽性であることが報告されている(文献18)。心臓以外では、骨格筋、骨髄、胎盤、羊水、脂肪、精巣に由来する細胞の心筋分化能と細胞表面マーカーを含めたマーカーが検討されている。これは骨髄由来間葉系幹細胞の議論と一見類似している。心筋前駆細胞においては、そのマーカー解析は極めて詳細であり、分化形質についても解析ツールが多彩であることより、明確な結論が出ているようにも見える。実際には異なるマーカーが示唆されており、統一された結果ではないが議論が間葉系幹細胞に比較すると深い印象を受ける。運命決定を一細胞レベルで行うことにより得られる実験系の確からしさが重要と思っていると同時に、賛否はあるだろうがES細胞を用いることでリーニージ解析ができ、その結果を生体に外挿すると、正確と思われる答えを得ることができるのではないだろうか。さらに、神経堤由来細胞が心臓の発生に関与するという事実と間葉系幹細胞の一部は神経堤由来であることは大変興味深い事実であることを付け加えたい(文献19)。
参考文献
8. Simmons, P.J., Torok-Storb, B.: Identification of stromal cell precursors in human bone marrow by a novel monoclonal antibody, STRO-1. Blood, 78: 55-62, 1991.
8. Simmons, P.J., Torok-Storb, B.: Identification of stromal cell precursors in human bone marrow by a novel monoclonal antibody, STRO-1. Blood, 78: 55-62, 1991.
9. Sacchetti B, Funari A, Michienzi S, Di Cesare S, Piersanti S, Saggio I, Tagliafico E, Ferrari S, Robey PG, Riminucci M, Bianco P.: Self-renewing osteoprogenitors in bone marrow sinusoids can organize a hematopoietic microenvironment. Cell.131(2):324-336, 2007.
10. Caplan AI.: All MSCs are pericytes? Cell Stem Cell. 3(3):229-230, 2008.
11. Crisan M, Yap S, Casteilla L, Chen CW, Corselli M, Park TS, Andriolo G, Sun B, Zheng B, Zhang L, Norotte C, Teng PN, Traas J, Schugar R, Deasy BM, Badylak S, Buhring HJ, Giacobino JP, Lazzari L, Huard J, P??ault B.: A perivascular origin for mesenchymal stem cells in multiple human organs. Cell Stem Cell. 3(3):301-313, 2008.
12. Phinney DG, Prockop DJ.: Concise review: mesenchymal stem/multipotent stromal cells: the state of transdifferentiation and modes of tissue repair--current views. Stem Cells.25(11):2896-2902, 2007.
13. Ren G, Zhang L, Zhao X, Xu G, Zhang Y, Roberts AI, Zhao RC, Shi Y.: Mesenchymal stem cell-mediated immunosuppression occurs via concerted action of chemokines and nitric oxide. Cell Stem Cell. 2(2):141-150, 2008
14. Keating A.: How do mesenchymal stromal cells suppress T cells? Cell Stem Cell. 2(2):106-108, 2008.
15. Sato K, Ozaki K, Oh I, Meguro A, Hatanaka K, Nagai T, Muroi K, Ozawa K.: Nitric oxide plays a critical role in suppression of T-cell proliferation by mesenchymal stem cells. Blood. 109(1):228-234, 2007.
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