がん研究所にて、骨軟部腫瘍にキメラ遺伝子EWS-Oct4/3があることが発見された。また、その骨軟部腫瘍から、細胞株が樹立された。何年か前の病理学会での発表を見た同僚が私にそのことを報告してくれた。その頃、間葉系細胞からヒト胚性幹細胞を作成しようと思っていたので、この腫瘍は胚性幹細胞の特徴を持っているのではないかと予想した。もらった細胞を調べてみるとそんなことはなく、ただの肉腫であった。結構がっかりしたのだが、報告しなきゃといろいろなことを試みた。キメラ遺伝子以外のゲノム異常はないのか。腫瘍細胞自体は胚性幹細胞の性質はもっていないが、EWS-Oct4/3は強いOct4/3活性を有しており、間葉系細胞を初期化できるのではないか。いろいろな可能性を探り、EWS-Oct4/3を間葉系細胞に導入したが結局、胚性幹細胞はできなかった。今で言うiPS細胞を作成しようとしていたわけであるが、当時は山中氏の発表もなく、何か雲をつかむような話であった。実際、やっている本人も半信半疑であるから、うまくいくわけがなかったのだろう。山中氏のような信念がなくては、iPS細胞はできないのであろう。
しかし、話はまだつづき、なんとEWS-Oct4/3は信念があったとしても全くiPS細胞はできなかっただろう。山中四因子のうち、Oct4/3の代わりにEWS-Oct4/3を利用しても全くiPS細胞はできなかった。もちろん、同じ細胞を用いてOct4/3を含む山中4因子でiPS細胞はたくさんできてきたので、結局、EWS-Oct4/3は強いOct4/3活性どころか全くOct4/3としても転写活性を有していないことになる。この内容は、現在Exp Cell Resに印刷中であり、今年度中に論文が出版されることになる。このEWS-Oct4/3に、単にがん遺伝子としての機能しかないことは韓国のグループがOncogeneに発表している。Oct4/3はかなりの部分の遺伝子があるのに、EWSがくっついただけで「がん遺伝子」に変身してしまうとは悲しい。というわけで、EWS-Oct4/3の研究はこれで終わりとなります。昔からEwing肉腫の研究をしていたので、この手のキメラ遺伝子研究は楽しかったが、結果として論文にはなったものの、「間葉系細胞から胚性幹細胞へ」ということはならなかったわけで、繰り返すが悲しい。
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