先天性代謝異常症、胆道閉鎖症、劇症肝炎等の重症肝不全患者に対しては、生体肝移植手術が根治療法として施行されている。国立成育医療研究センターでは、平成18年より小児生体肝移植手術を開始した。小児先天性代謝性疾患を対象とした肝移植手術では、ドナー由来余剰肝が生じる場合が多く、移植に用いられなかったドナー側の余剰肝は有効利用されず廃棄された。また、レシピエント側の摘出肝臓も廃棄されるケースが見られた。このような余剰肝や廃棄されてきたレシピエント摘出肝組織より肝細胞を分離し、細胞の収集を行った。肝細胞バンキングを行うことにより、肝細胞移植療法にかかる基盤研究(前臨床研究)を行うことが可能となる。
ドナー由来余剰肝に加えてレシピエント肝は疾患の原因となる酵素のみが欠損しているが他の肝細胞機能は正常であり、そのような肝細胞は他の肝疾患患者にとっては欠損酵素の有効な供給源となりうる。ヒト肝組織からの肝細胞の分離を行い、培養・凍結保存・融解に関する研究を実施している。さらにヒト肝細胞を用いた基礎研究として、薬物代謝・毒性試験、遺伝子解析、細胞治療法の基礎検討を開始している。特に細胞治療(再生医療)の研究では、先天性代謝性肝疾患や劇症肝炎の患者に対して肝細胞の分離・バンキング、肝細胞移植療法に向けた前臨床研究に寄与する。先天性代謝性肝疾患では、特定の酵素欠損が欠損し他の肝機能は正常なことが多いため、生体肝移植手術による治療よりも手術の負担が軽い肝細胞移植療法が適するケースもある。さらに、ドナー側余剰肝やレシピエント側摘出肝の有効利用として、肝細胞を分離・保存することにより、肝細胞バンキングを行い、他の患者への生体肝移植手術までの橋渡し的代替療法となりえる。肝細胞分離は、コラゲナーゼ液を露出血管より注入し、細胞間組織の消化により行う。分散細胞は、比重遠心法で肝実質細胞と非実質細胞に分離を行う。新鮮肝細胞として移植手術に用いられない細胞については、凍結保存を行う。細胞の凍結保存は、1 x 10^7個/mlの細胞濃度で行い、凍結保存液は85% University of Wisconsin (UW)液、15% DMSO液を用いる。
肝組織の詳細は、メチルマロン酸血症のレシピエント肝、CPS1欠損症のレシピエント肝、OTC欠損症のレシピエント肝、アラジール症候群のレシピエント肝、先天性門脈閉鎖症のレシピエント肝、胆道閉鎖症のレシピエント肝、正常肝であった。さらに、in vivoにおける特性解析として、前述の初代培養肝細胞を免疫不全マウス(NOGマウス)の大腿四頭筋に移植することにより、各細胞株の分化能の評価を行った。その結果、移植後4週間目に摘出した大腿四頭筋において、抗ヒトアルブミン抗体陽性、抗ヒト肝細胞抗体(CK8/18)陽性、抗ヒトビメンチン抗体陽性を示す細胞を検出した。また、メチルマロン酸血症のレシピエント肝細胞、およびCPS1欠損症のレシピエント肝細胞の寿命延長株作製に成功した。希少疾患である有機酸代謝異常症、尿素サイクル異常症等の先天代謝異常症や遺伝性肝内胆汁うっ滞症では、生体試料の収集が困難と考えられている背景の中で、患者由来の組織より複数の細胞株を樹立できたことは、品質管理技術開発、合併症発症機序の解明を図る上で大きい。
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