Tuesday, December 3, 2013

3.遺伝病由来細胞の入手と培養

 これまでの難治性疾患克服研究事業において、再生不良性貧血など有効な治療法が開発された疾患もあるが、難治性疾患の殆どにおいて有効治療法の開発がなされておらず、多くの疾患において未だ根本的な治療方法の確立がなされていないのが現状である。この要因として、症例が希少で臨床機関での症例や患者試料の蓄積が殆どないため、当該疾患克服研究を進めることが困難であることが挙げられる。この状況は当該疾患の発症機序解析などの基礎研究の広がりの妨げとなり、治療法開発や創薬の遅れを招いているともいえる。この障害を取り除くために、基礎研究者が円滑に高品質の患者試料を利用できる環境を整備することが重要である。そのような利用枠組みの整備と物理的環境の下地として、公的機関による患者試料の「難病研究資源バンク」を構築し、事業化することによって、患者試料の利用が必要な研究に基盤的横断的プラットフォームを提供することが可能になる。
 
 現在、医薬基盤研究所に保管する遺伝病由来の細胞を入手することが可能となっている。疾患遺伝子の構造、機能を確認することにも利用でき、またiPS細胞作製にあたり十分量の細胞を得ることも可能である。(独)医薬基盤研究所・細胞資源研究室は国内初の公的細胞バンクとして事業を開始し、厚生労働省の細胞バンクとして創薬研究・疾患研究に供する人細胞資源の収集、品質管理、保管、供給を行っている。最近では、京都大学放射線生物研究センターにおいて1970年代か ら収集されてきた『日本人における高発がん遺伝病患者とその家系に由来する貴重な細胞』を、高発がん性遺伝病患者由来細胞コレクション(表1)として、発がんの遺伝的背景の解明に役立てるために公開している。この貴重な細胞資源は、京都大学放射線生物研究センター・佐々木正夫教授が寄託したものである。
 
 
4.疾患由来iPS細胞の作製
 さまざまな細胞からヒトiPS細胞を作製することが可能となっている。入手したヒト細胞に対してレトロウイルスを用いてOCT-3/4, SOX2, KLF-4, c-MYCを導入しiPS細胞の作製を比較的容易に行うことが可能である(文献1,2)。現在はいわゆる山中4因子でなくとも、さまざまな遺伝子の組み合わせでiPS細胞が作製できるようになっている(文献3,4)。iPS細胞の作製や由来株の特性評価解析に必要な細胞数を確保するまで増やし保存することができた。われわれは1種類の遺伝病患者由来細胞からiPS細胞を4ライン樹立した。ES細胞様形態をもつ4ラインの細胞を維持培養できたので、iPS細胞としての評価を行った。その結果iPS細胞であることを示すマーカーの発現や移植による三胚葉分化をすべてのラインで確認した。今後順次疾患由来iPS細胞の作製を試みるとともに、各原因遺伝子の機能特性解析に必要な基盤ができたといえる。従って今後遺伝病疾患由来細胞からのiPS細胞樹立とともに、由来細胞との比較や正常細胞由来のiPS細胞との比較など多面的なアプローチによって難病克服に係る治療法や医薬品の開発を促進し、その研究成果を臨床機関にフィードバックしていくことが可能なところまで来ている。今後は、MRC-5細胞に由来するヒトiPS細胞と同様に、疾患に由来するiPS細胞に関しても公的にバンクに積極的に寄託していきたい。


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