我々の樹立した細胞株の一部を日本国内の公的細胞バンク(独立行政法人 医薬基盤研究所・独立行政法人 理化学研究所)に寄託登録している(表2)。公的バンクでは、他の研究施設より要請があった場合に高い安全性を有し、標準化された培養システムによって増殖する間葉系細胞を提供できる体制が構築されている。産科・婦人科・小児科にまたがる診療科に由来する組織・臓器、すなわち成育疾患に由来する手術検体の細胞は成人組織と異なる増殖能・分化能を認めていることから、成育バイオリソースとして独自な細胞供給源の集団として考えている.「成育(成長と発達)」とは、個体・器官・細胞の形態的あるいは量的増大を伴う変化であり、以下の特徴がある。1.細胞が増殖することにより、体重,身長の増大、臓器の体積が増加する。2.栄養因子,ホルモンの影響を受けやすい。機能の複雑性の獲得、機能の拡張。3.年齢とともに、より複雑な機能が可能になる。4.細胞の分化,各臓器の形成と成熟が急速に進行する。これらのことより、成育組織由来の細胞は増殖因子や成長因子により増殖し、分化運命決定されていない多分化能を有するが多く含まれている。
胎盤の魅力は,その大きな組織量である.組織内には,母親由来の脱落膜組織がみられるであろうし,さらに胎児由来の絨毛組織がある.脱落膜は母親の子宮内膜の間質細胞が上皮様になったものであり、絨毛組織からも間葉細胞を採取できる.羊膜に関しては、多くの総説がなされており、上皮性分のみならず間葉系細胞の成分の供給源として注目されており、角膜上皮として臨床応用されており、骨格筋の領域では前臨床研究が進められている。ここでいう胎盤は、正常出産の際に得られるものとして話をすすめる。胎盤は複雑な構造を呈しており、複雑な分、多くの種類の細胞が含まれる(文献5)。胎盤の胎児面には羊膜があり、羊膜は羊膜上皮と羊膜間葉からなる。羊膜下には、絨毛膜があり、絨毛膜は板上の絨毛膜板と繁茂絨毛膜(villous chorionまたはchorion frondosum)からなる。絨毛膜板の内面には羊膜が接着している。絨毛間に子宮のらせん動脈が開口し、母体の血液が流れている。胎児の背面側では、絨毛膜が伸展されて平坦になってしまうので、平滑絨毛膜 (smooth chorionまたはchorion laeve) と呼ばれる。繁茂絨毛膜を受ける子宮内膜の部分は基底脱落膜とよばれる。胎盤に由来するこれらの各部位をそれぞれ分離して培養し、バンキングすることが可能である。
7. おわりに。
細胞バンキングで最も有名であり、有効に利用されているものとして、臍帯血があげられる。臍帯血は、そもそも造血幹細胞移植のために利用されてきたが、現在では基盤研究にも用いられている(文献6,7)。臍帯血は細胞バンキングの横綱である。この臍帯血バンクをモデルとして、今後はさまざまな細胞がバンキングされ、有効に利用されることが望まれる。
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