培養している細胞の分化に関するポテンシャルは、変わらない。血液細胞は培養し続けても血液細胞である。分化状態の安定性と変化しやすいという、いささかパラドキシカルな事象が分化という現象の基本であり、転写因子のネットワークであり、ゲノムのメチル化であり、ゲノムのメチル化がその定常状態を産み出す.逆に定常状態が、転写因子のネットワーク、メチル化、ゲノムのメチル化を固定してしまうことも考えられ、その状態を観察すれば分化の定常状態がどのレベルにあるかを指摘できることになる.
Monday, March 26, 2007
Sunday, March 25, 2007
形態学的な骨髄間質細胞
骨髄間質細胞の形態学的な分類って、今の時代になっても大事だよ。もちろん、分化形質で分類するのがスジというのも分かるけど、分化形質ってスッキリいかないから。動脈は赤で、静脈は青で書かれています。実際にこのスキームをお描きになったのは、宮内潤教授だと理解しております。微妙に神経も描かれているのが味噌です。
PAA: Periarterial adventitial cells.
ISR: Intersinusoidal reticular cells.
PSA: Perisinusoidal adventitial cells.
臍帯血由来の間葉系幹細胞
臍帯血から間葉細胞が単離できるという発表が次々となされている.得られた間葉細胞は胎児由来であり、極めて増殖能力が高い.また、骨髄由来の間葉細胞に比較しても寿命が長いと思われ、分裂回数が多い.臍帯血バンクに使うことができない血液を今後は研究用に使用することが可能になる手続きが進められており、臍帯血は間葉細胞の重要な供給源のひとつとなりえる.間葉系細胞とは骨、軟骨、脂肪、骨格筋、真皮、靭帯、腱といった結合織細胞を総称しており、発生学的に中軸中胚葉由来の細胞である。また、この中軸中胚葉の他に、心筋、平滑筋、血管内皮といった発生学的に臓側中胚葉由来の細胞がある.
臍帯自体は、胎児と胎盤をつなぐひもであり、表面は羊膜の単層立方上皮で被われている.臍帯は、2本の臍動脈、1本の臍静脈を含む.これらの血管の間を埋めている結合組織は原始的な結合組織であり、膠様組織またはWharton's jellyと呼ばれる.菲薄な突起をのばす細網細胞(ここでは間質細胞または間葉系細胞と同義)が粗い網目をなし、細胞間質には膠原線維が不規則に走り、基質はグルコサミノグリカン(酸性ムコ多糖類)に富む粘液様の物質でできている.
このような臍帯だけに存在するのではなく、これに似た組織は胎児の結合組織にも見られる.胎齢6ヶ月までの真皮は寒天のようであり、このような真皮は膠様組織の状態にある.臍帯血の間葉系細胞の章で臍帯の構造を議論するのも、臍帯血の検体に含まれる間葉細胞が臍帯血をとるときに臍帯中にふくまれるWharton jellyに存在する間葉細胞が採取されてしまっている可能性は否定できず、本当に血液中に含まれているのかどうかは疑問が残っているためである.Wharton jelly由来であるという議論は残るがほとんどの論文では臍帯血からある割合で間葉系細胞が採取されるというのが現在のところの結論である.
この臍帯血の議論は、末梢血でも言えるかもしれない。
中軸中胚葉と臓側中胚葉に由来する間葉系細胞
間葉系細胞とは骨、軟骨、脂肪、骨格筋、真皮、靭帯、腱といった結合織細胞を総称しており、発生学的に中軸中胚葉由来の細胞である。また、この中軸中胚葉の他に、心筋、平滑筋、血管内皮といった発生学的に臓側中胚葉由来の細胞がある.
Wednesday, March 21, 2007
間葉系幹細胞
さまざまな組織に由来する幹細胞が議論されており、「培養した幹細胞は、造血幹細胞のような培養しない幹細胞にかかわるアッセイ系は同じ意味がもてるか?」、「間葉系“幹”細胞といっているけど、培養する過程で“幹細胞性”を獲得するのはないだろうか?」、「生体内では、間葉系幹細胞は本当に幹細胞と言えるのかどうか?」がその論点である.間葉系幹細胞の多分化能性はFibroblast colony-forming unitというコロニーに由来する細胞を利用するために、試験管内でのアッセイとなる。または、ひとつの細胞に由来するコロニーで多分化能を検討する方法と同時に、ひとつの細胞を蛍光蛋白質でラベルして多分化能を検討する方法がある.幹細胞の定義は「自己複製と多分化能性を有する細胞」であることから培養し増殖した時点で細胞は自己複製能を有している訳であり、多分化能を獲得すれば間葉系に由来する幹細胞ということになってしまう.多分化能性は、試験管内で誘導剤を用いるので極端な場合かなりの細胞が幹細胞と判断され、分化能を有していない単なる間葉系細胞は線維芽細胞と呼ばれることになる.造血幹細胞は培養し増殖させることはむずかしいもののCD34, CD133といった表面マーカーを利用して単離することが可能であり、幹細胞を同定するアッセイ系も多い.その一方、培養する幹細胞の代表としてあげられるものとして、胚性幹細胞と間葉系幹細胞があげられる.骨髄に由来するヒト間葉系幹細胞の分離は、「骨髄細胞に対して、CD29, 44, 73, 105, 166を陽性抗体として、CD14, 34, 45を陰性抗体として使用することによる間葉系幹細胞分画の認識」がある.この場合は、間葉細胞を一度も培養することなく、骨髄穿刺によって得られた骨髄細胞から直接、間葉細胞を分離する.臍帯血に由来する間葉系細胞は数が極端に少ないことから、ソートすることは意味がないと考えられる.検体全てを培養しても1個ないしそれ以下である.
造血系幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞とでは科学的な意味で定義、アッセイ系を含めて同じ幹細胞とは言えない.医療に用いられる骨髄間質細胞は、培養皿に付着し、増殖するものを指すことが多いけれども、多分化能を有する間質細胞に共通する指標を明確にすることは臨床的に極めて重要な意義を持つ.さらに、これらの指標は発生生物学的に妥当であり、神経幹細胞、上皮細胞、血液細胞といった他の系統の細胞との差別化が可能であることが必要とされると同時に最前線の医療現場で検証可能な現実的なものでなくてはならない.これは造血幹細胞と間葉系幹細胞の違いだけにいえることではなく、神経幹細胞、胚性幹細胞、Trophoblastic stem cells, 腸管上皮幹細胞、肝幹細胞、毛根幹細胞、生殖幹細胞(EG cells)といった他の幹細胞にも関わる問題である.これらの間で使用されている「幹細胞」という単語の定義が異なることが科学者間で感じられていた.一番、研究が進んで明確な研究がなされているのは造血幹細胞であることは間違いない.培養できる幹細胞と培養しない幹細胞との間には、アッセイ系を含めて言葉に混乱しており、明らかに一部に間違いがある.しかし、もう少し事態が明らかになるまでの間、言葉の混乱も概念の混乱もある程度は避けられない.NIH/NIAの洪実氏にこのことを京都の学会が終わった後に尋ねたところ、「間違っていたんでしょ.」と二度ほど返事を貰った.
形態学的な名称である骨髄間質細胞は、骨髄芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞といった分化形質に従って呼ぶべきであるか? 骨髄間質細胞が示す分化形質として、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞があげられる.間葉細胞とか間質細胞といった抽象的な名称であるので、その分化形質で細胞を呼ぶのが正しいという指摘があり、もっともな考えである.細胞を形態学で分類するよりも、生物学的特性で分類することは正しい.問題は、骨芽細胞は一般に脂肪細胞への分化能を有しており、ニューロンへの分化能も有していることがあり、試験管内においては細胞の初期値で名称をつけることがむずかしいことである.骨芽細胞及び筋細胞になる間葉細胞は多分化能を有していることが多いけれども、臨床的に筋骨格筋系への分化能を有する細胞の指標を明確にすることは極めて重要な意義を持つことになる.
骨髄間質細胞を、テロメア長で規定されるReplicative senescence(M2)まで培養可能とする具体的な方法は何か? 骨髄間質細胞の増殖培地には通常、血清が含まれており、その血清成分のうち成長因子含有量、セロトニン(インドールアミンに属する生理的活性アミンの一種)含量が影響するらしい.また、bFGF, PDGFといった増殖因子による無血清化が可能かどうかは、科学的な面のみならず臨床的にも重要な意味がある.臍帯血由来間葉系細胞を不死化させるのにhTERTを導入するだけで十分であることは、骨髄由来の間葉系細胞とは異なる.骨髄由来の間葉系細胞は、通常の培地ではpremature senescenceに陥るため、p16/RB経路を阻害する必要がある.そのため、p16の転写を防ぐBmi-1を導入したり、RB蛋白と結合するE7を導入することでpremature senescenceをバイパスする必要がある.
私は医療の現場で治療にかかわった経験がない.細胞治療/再生医療がすすんだ場合、出る幕がなくなると考えており、再生医療の研究会に出席するとそんな気分になることも多い.初めに記載したとおり平成17年は再生元年という勢いであり医療としての面が進み、たいへんに嬉しい.その一方、骨髄間質屋としての自負を持ち、間質を規定する分子同定、培養する過程における間質性及び幹細胞性を保持するメカニズム解明、間葉系組織における骨髄間質の分子レベルでの特徴を明らかにすることは極めて重要な課題である.
Tuesday, March 20, 2007
細胞の性格を調べる方法。
培養細胞の性格を知る方法は、2種類。免疫不全マウスへの移植とGene chip解析です。移植することで、骨、軟骨、骨格筋ができるのが分かる。Gene chip解析をしたのちに、Hierarchical clustering analysisやPrincipal component analysisをすることで、だいたいどんな細胞か予想がつく。強膜が軟骨だなんて結論は、Gene chip解析で得た。OP9細胞が軟骨だなんて結論もGene chip解析で得た。昔の話だけど、KUSA-A1細胞が骨芽細胞だっていうのは、移植実験で得た。
心臓への分化は、培養しているときに、拍動するかどうか。神経への分化は突起をのばすかどうか。脂肪細胞への分化は、細胞質に小脂肪滴が蓄積するかどうか。どれも試験管内での形態をみている。
だから、結論は、間葉系細胞の分化は、試験管内で分化させるか、移植するかでわかるわけ。それを前もって予想するのは、Global gene expression profileをみる。
Thursday, March 15, 2007
Wikipediaに、骨髄間質細胞と間葉系幹細胞についての項目を書こうと思っています
骨髄間質細胞をご存じですか.骨髄間質細胞も間葉系幹細胞も英語にして略語ではMSC となる。この項目をWikipediaに掲載しようと思っています。少しずつ、書きためていってから、掲載しようと思っています。英語でみると既に項目として登録されているので、その訳でもいいんでしょうけど、自分でいろいろなところの文章を掲載しようと思っています。
1970年代の後半,造血臓器である骨髄において造血機能が円滑に行われるためには,造血環境を支持する造血微小環境の存在が必須であることが明らかにされ,初めて骨髄間質が間を埋める細胞としてだけでなく機能的にも役に立っていることが示唆された.その後,この造血微小環境は試験管内の研究を中心として発展し,間質細胞のいくつもの不死化した細胞が得られた.それらは当初より,脂肪細胞への分化といった分化能は知られていたが,主に血液幹細胞と免疫細胞の支持能を有しているなどの造血への貢献で分類がなされ,より未分化血球細胞を維持する能力を有している間質細胞がもてはやされ,科学への貢献も多大なるものがあった.
こんな中で,分化の研究は成体より単離した細胞の分化から,胎児性幹(ES)細胞や胎児性癌(EC)細胞といった未分化多能性幹細胞に関わる分化が注目を浴びた.これら未分化細胞は,生体内であらゆる細胞へ分化すると知られた.試験管内でもこの多分化能が次々と再現され,再生医療の供給源となる.一方,1990年頃に骨髄間質にも信じられない事実がみられた.造血微小環境の維持という高度の機能を有している骨髄間質細胞に,未分化細胞に特有な多分化能が存在するという事実がみられた.詳細には,成人から採取した骨髄間質細胞は間葉系由来であり,骨,軟骨,心筋,骨格筋,脂肪に分化し,心筋細胞に分化した際には拍動を始めるようになる.さらには胚葉を越えて,神経幹細胞のようにニューロンにまで分化することが明らかになってきた.
こうした研究成果は,必然的に骨髄間質細胞の再生医療への応用という,極めて実際的な医療行為につなげる動きがみられた.特にヒトへの応用という観点からすると,1.骨髄細胞は,日常行われる骨髄穿刺液より容易に分離,培養することができるため,その利用が簡単であり,2.自己細胞を用いることができるため,拒否反応を避けることができ,また倫理的な問題が生じる余地も限られる.また,3.上述のごとく,間質細胞の多分化能を利用すれば,心筋,骨,軟骨組織への広範な組織への利用への可能性がひろがる.最後に一言付け加えれば,間葉系細胞であるがゆえに試験管内で増殖が盛んであり,大量の細胞を得ることが可能であり,遺伝子操作もしやすい.
多分化能を有する間質細胞を機能性細胞に転換するには,発生学の知識を利用している.さらに現実的なことを言えば,発生学の知識にしたがって,機能性細胞を作成するしか方法が思い付かない.分化した細胞(核)の初期化における実際の誘導方法を明らかにすることは,細胞移植を考えるうえで現実的な課題であり,発生学の知識からスタートする.このような現実に則した面が,細胞移植・再生の研究が錬金術的と指摘される所以であると考える.指摘は指摘として,細胞の全能性を明らかにするには,ゲノムまたは核の「全能性」の分子機構を明らかにする必要があることは,間違いない.一方,このような分子機構を明らかにすることと同時に,細胞を別の細胞へと分化させる細胞転換を考えるうえでは,低分子化合物によるリセットで,細胞の「初期値」をクリアすることが最も効率が良いと感じていた.さらに言えば,「初期値」の情報をリセットするには,誘導剤,コーティング,培養方法だけでは不十分であると思っていた.その考えはどうも誤りであったようだ.
Sunday, March 11, 2007
直ぐ下の記事にコメントありがと。
あと、脂肪と言っても、骨髄内の脂肪とお腹の脂肪では状況が違うとおもしろいね。
Tuesday, March 6, 2007
サイトカイン・ホルモン産生臓器としての間葉系細胞
間葉系細胞のひとつである脂肪細胞または脂肪組織は、最大の内分泌組織として知られている.レプチン(Leptin)、腫瘍壊死因子(TNF-alpha)、アディポネクチン(Adiponectin), レジスチン(Resistin)、Adipsin, Angiotensinogen, ステロイドホルモン、PAI-1といったホルモンを産生する.分化過程でそれらのホルモンの産生量が変化することも知られており、メタボリック症候群との連関が指摘されている.骨髄由来の脂肪細胞との異同が興味深い.
CXCL12 (SDF-1/PBSF)は、造血、器官形成などの発生現象への寄与が明らかとなったサイトカイン(ケモカイン)であり、その受容体であるCXCR4はHIV-1の宿主細胞における受容体としても働き、エイズ発症に必須の分子として知られている.CXCR12は骨髄由来の間葉系細胞から産生されており、造血系・免疫系・血管系の発生・再生に重要な役割を果たす.
Epithelial-mesenchymal transition
上皮細胞と間葉系細胞との間に転換が生理的病的に生じやすいと思われる臓器を考えると子宮内膜と腎臓が思いつく.腎組織は中胚葉から生じる上皮細胞ということであるけれども、子宮内膜腺も同様ではないか.子宮内膜は、内膜腺上皮とその間葉系細胞からなり、上皮と間葉に共通する幹細胞が存在する可能性があげられている.腎臓の間質細胞と知られてる細胞は、脂質の小滴に富む星形の細胞がみられる.こららの細胞から、降圧作用を有するプロスタグランディンE2およびリン脂質である血小板活性因子が産生されると考えられている.この間葉系細胞も腎尿細管上皮から生じる可能性がある.このような発生学・再生医学・病理学に関与する現象から間葉系の性状と機能に関わる分子基盤を明確にし、間葉系細胞の維持に関わる遺伝子ネットワークを知りたい.
ヒトES細胞から間葉系幹細胞に関する論文の一部を写しました。
ヒトES細胞をOP9細胞の上で40日間、共培養し、間葉系幹細胞のひとつのマーカーであるCD73 (SH-4)でソートした.CD73陽性細胞を指標に単離した細胞をフィーダー細胞なしで続けて1、2週間培養することで、扁平で紡錘形細胞を得ることが可能となる.これらの細胞は成体の間葉系幹細胞のマーカーであるCD105(Endogrin, SH2), STRO-1, CD106(VCAM), CD29 (integrin beta1), CD44, CD54 (ICAM-1), ALCAM (CD166), vimentin, alpha-smooth muscle actinが陽性となり、造血系マーカーであるCD34, CD45, CD14は陰性である.Affymetrix社のDNA chip解析により、遺伝子発現が胚性幹細胞から間葉系幹細胞に移行する際に誘導される.胚性幹細胞から誘導された間葉系幹細胞ないし中胚葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪に分化可能である.骨に特徴的なAlkaline phosphataseとBone sialoprotein、脂肪に特徴的なPPARγ、軟骨に特徴的なCollagen type II、Aggrecanの発現が上昇する.
細胞移植の供給源としての間葉系幹細胞
分化能を利用した戦略では、間葉系幹細胞移植による血管新生・心筋再生を介した心不全の軽減があげられる.心不全の実験動物モデルに対し、骨髄由来の間葉系幹細胞を移植した場合に心機能の改善がみられた.その機序として間葉系幹細胞が心筋や血管の細胞に分化することにのみならず、VEGF, HGF, adrenomedullin, IGF-1といったサイトカイン効果があげられる.ヒト拡張性あるいは虚血性心筋症に対するカテーテルを介した間葉系幹細胞移植の臨床研究でも良好な結果が得られたと報告されている.
歯科領域においても、歯槽骨の再生に骨髄由来の間葉系細胞が用いられ、効果があることが知られる.一方、間葉系細胞のみではセメント質、歯根膜の再生には至っていない.歯や歯周組織の発生には、口腔粘膜上皮に由来するエナメル上皮と周囲に凝集した神経堤由来の外胚葉性間葉系細胞が相互に様々な細胞増殖因子を分泌して増殖や分化を繰り返しながら進行し、歯冠、歯根、歯周組織が形成されていく.歯の発生には、上皮細胞と間葉系細胞との間でシグナル分子のやりとりをする上皮間葉系相互作用が必要となる.
もっとも、症例数が多い間葉系細胞を用いた細胞治療は、自家軟骨細胞移植である.関節軟骨の部分損傷に対し、軟骨細胞を損傷部に移植して修復する方法が報告されている.荷重がかからない部分の関節軟骨を採取し、軟骨細胞を培養して増殖させた後、骨膜で被覆した欠損部に移植する.既に数千例が行われており、産業界もこの分野に参入している.しかし、軟骨細胞の増殖能が限られていること、軟骨形成が完全でない場合があることより、問題点も指摘されている.
間葉系幹細胞の特定
20年も前(1985年)に自身が病理学の分野に参加したときに、食堂と呼ばれる部屋で現千葉大学教授の張ヶ谷健一先生に「上皮って何ですか?間葉って何ですか?」という単純というか無知というか質問をし、質問された側だけでなく質問した側まで困惑してしまった記憶がある.質問はともかく、間葉系細胞の役割には、ふたつある.ひとつは、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞に分化する間葉系幹細胞としてであり、もうひとつは他の幹細胞を支持する細胞としてである.その役割を考えると同時に「間葉系細胞とは何か」という問いに対して分子レベルでの定義をすることは、極めて重要であると考える.
間葉は支持する組織という意義付けができ、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞に分化する潜在能を有している.間葉系細胞は、E-cadherin陽性細胞(上皮細胞、胚盤胞内部細胞塊、胚性外胚葉・エピブラスト)に対し、BMP (bone morphogenetic protein)やFGF(fibroblast growth factor)、Wnt, TGF-betaが作用することにより、Smad, TCFといった転写因子を介してSnail(Znフィンガー型転写因子)が活性化されることにより形成される.このSnailがE-cadherin遺伝子プロモーターに存在するE-boxに結合することでE-cadherin遺伝子発現が抑制される.同時に、ビメンチン、ファイブロネクチンといった間葉に特徴的な遺伝子の発現が上昇する.最終的には、間葉系細胞を規定する分子機序が明確にし、間葉系細胞の分化過程を分子レベルで明らかにすることが必要である.
Sunday, March 4, 2007
一昨年の話
一昨年の夏のフィナーレを飾るような暑さが続く8月27日の新聞・テレビに、骨髄細胞を重症の心臓病に移植することで成果をあげた許俊英教授と五條理志講師の発表が伝えられた.重症の心臓病に対して骨髄細胞を注入する再生医療は、当時(2005年9月25日)で6例目であるけれども、補助人工心臓を外せるような状態まで回復した例は少ないとされる.実際には患者さんの腸骨から骨髄細胞を採取し、有核細胞を遠心分離し、カテーテルを使用して壊死した心筋細胞の冠動脈に移植した.細胞移植が、予想されるような副作用がなく、心臓における血管新生に作用したのであれば、それは極めて好ましいことである一方、十分に今回の「再生医療」の意義を検証する必要がある.話には聞いていたものの、日本経済新聞に掲載されたように男性患者さんが花束を看護師さんから受け取って退院するカラーの写真をみることは、前臨床研究を一緒に進めてきた者のひとりとして嬉しい.