さまざまな組織に由来する幹細胞が議論されており、「培養した幹細胞は、造血幹細胞のような培養しない幹細胞にかかわるアッセイ系は同じ意味がもてるか?」、「間葉系“幹”細胞といっているけど、培養する過程で“幹細胞性”を獲得するのはないだろうか?」、「生体内では、間葉系幹細胞は本当に幹細胞と言えるのかどうか?」がその論点である.間葉系幹細胞の多分化能性はFibroblast colony-forming unitというコロニーに由来する細胞を利用するために、試験管内でのアッセイとなる。または、ひとつの細胞に由来するコロニーで多分化能を検討する方法と同時に、ひとつの細胞を蛍光蛋白質でラベルして多分化能を検討する方法がある.幹細胞の定義は「自己複製と多分化能性を有する細胞」であることから培養し増殖した時点で細胞は自己複製能を有している訳であり、多分化能を獲得すれば間葉系に由来する幹細胞ということになってしまう.多分化能性は、試験管内で誘導剤を用いるので極端な場合かなりの細胞が幹細胞と判断され、分化能を有していない単なる間葉系細胞は線維芽細胞と呼ばれることになる.造血幹細胞は培養し増殖させることはむずかしいもののCD34, CD133といった表面マーカーを利用して単離することが可能であり、幹細胞を同定するアッセイ系も多い.その一方、培養する幹細胞の代表としてあげられるものとして、胚性幹細胞と間葉系幹細胞があげられる.骨髄に由来するヒト間葉系幹細胞の分離は、「骨髄細胞に対して、CD29, 44, 73, 105, 166を陽性抗体として、CD14, 34, 45を陰性抗体として使用することによる間葉系幹細胞分画の認識」がある.この場合は、間葉細胞を一度も培養することなく、骨髄穿刺によって得られた骨髄細胞から直接、間葉細胞を分離する.臍帯血に由来する間葉系細胞は数が極端に少ないことから、ソートすることは意味がないと考えられる.検体全てを培養しても1個ないしそれ以下である.
造血系幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞とでは科学的な意味で定義、アッセイ系を含めて同じ幹細胞とは言えない.医療に用いられる骨髄間質細胞は、培養皿に付着し、増殖するものを指すことが多いけれども、多分化能を有する間質細胞に共通する指標を明確にすることは臨床的に極めて重要な意義を持つ.さらに、これらの指標は発生生物学的に妥当であり、神経幹細胞、上皮細胞、血液細胞といった他の系統の細胞との差別化が可能であることが必要とされると同時に最前線の医療現場で検証可能な現実的なものでなくてはならない.これは造血幹細胞と間葉系幹細胞の違いだけにいえることではなく、神経幹細胞、胚性幹細胞、Trophoblastic stem cells, 腸管上皮幹細胞、肝幹細胞、毛根幹細胞、生殖幹細胞(EG cells)といった他の幹細胞にも関わる問題である.これらの間で使用されている「幹細胞」という単語の定義が異なることが科学者間で感じられていた.一番、研究が進んで明確な研究がなされているのは造血幹細胞であることは間違いない.培養できる幹細胞と培養しない幹細胞との間には、アッセイ系を含めて言葉に混乱しており、明らかに一部に間違いがある.しかし、もう少し事態が明らかになるまでの間、言葉の混乱も概念の混乱もある程度は避けられない.NIH/NIAの洪実氏にこのことを京都の学会が終わった後に尋ねたところ、「間違っていたんでしょ.」と二度ほど返事を貰った.
形態学的な名称である骨髄間質細胞は、骨髄芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞といった分化形質に従って呼ぶべきであるか? 骨髄間質細胞が示す分化形質として、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞があげられる.間葉細胞とか間質細胞といった抽象的な名称であるので、その分化形質で細胞を呼ぶのが正しいという指摘があり、もっともな考えである.細胞を形態学で分類するよりも、生物学的特性で分類することは正しい.問題は、骨芽細胞は一般に脂肪細胞への分化能を有しており、ニューロンへの分化能も有していることがあり、試験管内においては細胞の初期値で名称をつけることがむずかしいことである.骨芽細胞及び筋細胞になる間葉細胞は多分化能を有していることが多いけれども、臨床的に筋骨格筋系への分化能を有する細胞の指標を明確にすることは極めて重要な意義を持つことになる.
骨髄間質細胞を、テロメア長で規定されるReplicative senescence(M2)まで培養可能とする具体的な方法は何か? 骨髄間質細胞の増殖培地には通常、血清が含まれており、その血清成分のうち成長因子含有量、セロトニン(インドールアミンに属する生理的活性アミンの一種)含量が影響するらしい.また、bFGF, PDGFといった増殖因子による無血清化が可能かどうかは、科学的な面のみならず臨床的にも重要な意味がある.臍帯血由来間葉系細胞を不死化させるのにhTERTを導入するだけで十分であることは、骨髄由来の間葉系細胞とは異なる.骨髄由来の間葉系細胞は、通常の培地ではpremature senescenceに陥るため、p16/RB経路を阻害する必要がある.そのため、p16の転写を防ぐBmi-1を導入したり、RB蛋白と結合するE7を導入することでpremature senescenceをバイパスする必要がある.
私は医療の現場で治療にかかわった経験がない.細胞治療/再生医療がすすんだ場合、出る幕がなくなると考えており、再生医療の研究会に出席するとそんな気分になることも多い.初めに記載したとおり平成17年は再生元年という勢いであり医療としての面が進み、たいへんに嬉しい.その一方、骨髄間質屋としての自負を持ち、間質を規定する分子同定、培養する過程における間質性及び幹細胞性を保持するメカニズム解明、間葉系組織における骨髄間質の分子レベルでの特徴を明らかにすることは極めて重要な課題である.
Wednesday, March 21, 2007
間葉系幹細胞
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