Thursday, July 24, 2008

講演記録

エピジェネティクス産業の出口を再生医療とするときの具体的なアプローチが、2点あると考えております。
第1点はエピジェネティクス修飾剤の開発、第2点はドナー細胞の規格化である。
始めの、エピジェネティクス修飾剤の具体的なものとしては、分化誘導剤と脱分化誘導剤が挙げられ、分化誘導剤としては5-アザシチジンのような脱メチル化剤を考えている。5-アザシチジンは、米国では、Phamion社が骨髄異形性症候群の治療薬として販売しており、自分も分化誘導剤として使用している。これとは逆に脱分化誘導剤、同様にエピジェネティクスを変化させるクロマチン修飾剤があります。例えば、山中京大教授のiPS細胞作成で使用された癌遺伝子c-myc,Klf-4は、細胞が癌化する可能性が考えられるので、それに代わる低分子の修飾剤が得るのはどうかという提案です。
第二点は移植のドナー細胞の規格化です。具体的にはT-DMR(Tissue-dependent, Differentially Methylated Region)を短時間で検証するソフトを開発し、それによりドナー細胞の分化形質の担保が出来ないかということ。更に、産業化している移植医療の安全性を担保するためにドナー細胞の腫瘍化可能性を、癌遺伝子p16、RB等の遺伝子のエピジェネティクな変化を網羅的に解析し、形質転換可能性のCut off値を設定し、移植可能性を担保出来ないかといことです。



始めに再生医療について説明します。
肝臓が再生することは、「プロメテウスは、ゼウスによりカウカソス山の山頂に縛り付けられ毎日その肝臓をハゲタカに食われていたが夜中に再生した」という神話が示すようにギリシャ神話の昔から分かっていました。更にアルコール性肝硬変の患者の肝臓でも、粒粒の再生部分が観察され、肝臓の再生が行われることがわかります。また、成育医療センターでは年間25例肝臓移植が行われますが、残された部分、移植された部分が元の大きさに戻ります。即ち肝臓は再生すると言うことです。しかし、一方心臓は再生しませんので、心筋梗塞を起こすと心筋細胞が死滅するのみであります。
実際どの程度再生医療が進んでいるかというのが次のスライドです。

成育医療センターは、爪の先から月経血までヒトの各種組織の体細胞の供給源、バンクとして機能しています。研究用の細胞は理研(筑波)より、医療・産業界用のものは医薬基盤研から入手可能です。これらのチップ情報は、NCBIのGEOに寄託してある。
そのほかに誰が何処でも使用できるuniversal細胞として、ES細胞、iPS細胞、精巣細胞があります。本当に同じ特徴を有しているかは不明です。
再生医療の例としてDuchenne型筋ジストロフィーの治療について解説する。幼少期に発症し、進行性の筋萎縮による筋力低下が起こり、多くは20歳代に心不全、呼吸不全で死亡する。筋ジストロフィーの中で最も頻度が高いx連鎖劣性遺伝性疾患で、男児の3,500人に一人が発症する。原因はDystrophinの異常で骨格筋でのdystrophinの欠損が起きることです。我々の携わる再生治療では、月経血からの細胞(脱落してきた子宮内膜細胞)にDNAメチル化阻害剤である5-アザシチジンを用いて骨格筋細胞に分化させています。
このDNAメチル化阻害剤である5-アザシチジンは、骨髄異形成症候群に対する適応で世界で始めてFDAに承認された薬で、症状を改善し、輸血の必要性をなくし、白血病の発現を遅延させました。2004年7月の米国発売以来医療機関に広く受け入れられ、2004年度の売上高は100億円程度になっています。その作用メカニズムはDNAのメチル化を阻害することで遺伝子の配列を変化させることなく、クロマチン構造を変化させ遺伝子の発現を変化さ、腫瘍性増殖の抑制をすることです。また、5-アザシチジンの誘導体である5-aza-2ユ-deoxycytidine(Decitabine)も、ハイリスクの患者に5-アザシチヂン異常の有効性が期待されています。
骨髄異形成症候群とは、白血病に移行する前の前白血病のことで、元都知事の青島幸男氏が亡くなられた病気です。この病気で使用されている5-アザシチジンを再生医療で使用できないかと言うことです。下図に見られるように、ヒトの月経血を用いモデルマウスで移植した細胞の10%程度でDystrophin発現陽性になります。

将来問題になる可能性があるのは、抗癌剤である5-アザシチジンを使用していることで、特に、がん専門の先生方が問題にするかもしれません。ここで使用している月経血とは、螺旋動脈が痙攣し虚血により月経1日目に落下してきた子宮内膜の細胞で、とっても良く増殖します。
医療の現場ではどうかと言うと、細胞医療と再生医療の現状で、難治性の心不全の患者8例に、国立循環器病センターで骨髄の間葉系細胞を打ち込んでいます。実際に移植した細胞が心筋になった事実は無いのですが、確実に効果が出ています。実際にはカテーテルを用いて心筋組織に10の9乗の細胞を打ち込みました。

ここで言いたい事は、再生医療でメチル化阻害剤を分化誘導剤として用いることができるかどうかと言うことです。その一方、がんのリスクと同じリスクもあります。さて、間葉系の細胞である月経血と同じ間葉系の細胞に癌遺伝子c-Myc、Klf4を用いて万能細胞であるiPS細胞を作成しています。しかし、これら癌遺伝子を用いることは難しいと思われるので、代わりに脱分化誘導剤として、クロマチン修飾剤を使用することが出来るかということです。言い換えると、エピジェネティク修飾剤のin vivoスクリーニング系ができるかどうかと言うことです。

細胞分化とエピジェネティクスの関係を簡単に説明します。発生が進むと細胞は多分化能を失っていき,ある限られた細胞にしか分化できなくなる.多分化能を有する細胞からある系統にしか分化できない細胞への移行は,細胞の潜在性の消失または遺伝子発現の制限にほかならない.細胞特異的な遺伝子の発現は,細胞特異的な転写因子による転写活性と細胞特異的なゲノムのメチル化による転写抑制があり,どちらの影響がより強いかは細胞ごと及び遺伝子ごとに異なる.組織幹細胞の分化における制限はゲノムのメチル化にあり、その構造を意識し改変することが再生医療おける細胞転換のきっかけとなる.

このような科学的な根拠を基盤として、既に動き出している再生医療において、委員である塩田先生が精力的に研究しているT-DMRを用いて細胞の規格化をしたい。組織の細胞は培養するとメチル化が固定します。変な話ですが、メチル化の状態が分化状態に反映するのではなく、分化状態がメチル化の状態に反映するわけです。このメチル化の状態を検査し分化形質を担保できるかどうかということです。言い換えると、細胞を心臓に移植する前に、この細胞が骨に分化しないことを担保するような判別式ができないかと言うことです。判別式が出来、更に、エピジェネティクス検査、メチル化検査を一日で出来る機械が出来れば、移植前にドナー細胞の移植可能性の検討が可能になります。もう一つは、癌遺伝子のプロモーター領域を網羅的に解析して、判別式を作成し、移植するドナー細胞の腫瘍化の可能性のCut off値を決めようと言うものです。


再生医療は癌と比べると研究費が少ないが、再生医療はNEDOの動向調査に見られるようにかなりの規模で進展しています。

そこで、GeneChip解析のAffymetrix社のビジネスモデルを参考に、細胞の初期状態、有用細胞のスクリーニング、発がん関連遺伝子解析により安全性検証するエピジェネティクス産業を興そうというのが今回の提案です。まず始めに、どんな稚拙なものでもいいから、プラットフォームを上市しデファクトスタンダードを作ろうというものです。何故かというと、はじめにデータを取ると、後で比較するためにはプラットフォームの変更ができなくなるので、どんな稚拙なものでもデファクトスタンダードを創ろうと言うことです。例えば我々の仕事でも骨髄で得られたデータを月経血で取る時も同じプラットフォームを使用しています。だから、エピジェネティクス産業のデファクトスタンダードを早く作り、新産業を興そうというのが私の提案です。



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