Sunday, January 31, 2010

医学のあゆみに掲載された「間葉系幹細胞」の日本語訳、いや原文の一部

中国語訳と韓国語訳をした元の日本語の文章を貼り付けます。元々の文章及び図は、医学のあゆみ「細胞医療 Update」に掲載されているので、そちらをご覧下さい。



間葉系幹細胞
キーワード: 細胞医療 再生医療 胎盤 骨髄 CFU-f

サマリー

 細胞医療・再生医療において、供給源となる細胞のひとつとして、間葉系幹細胞がある。表皮細胞、角膜上皮細胞が現実の再生医療として利用されているのと同様に、間葉系幹細胞が形成外科、歯科口腔外科、循環器科、整形外科の領域で細胞製剤として考えられている。骨髄に由来する間葉系細胞を移植することが、移植片対宿主病(GvHD)に対する治療選択肢として臨床試験が開始された。さらに、その増殖能が高いことと同時に遺伝子導入が容易であることより、遺伝子治療の対象となる細胞として考えられる。間葉系幹細胞研究の歴史は長く、同一ないしは類似した細胞に対し、種々の呼称が存在する。また、間葉系幹細胞を規定するマーカーの同定に対する研究が精力的に行われている。


はじめに

 間葉系幹細胞の概念は広く知られており、細胞医療においてもその利用しやすさから、供給源として用いられることも多い。間葉系幹細胞の研究が急速に進んでいるにもかかわらず、間葉系幹細胞の性格についての確実な情報がないように思われる。それは、ES細胞、iPS細胞及び他の体性幹細胞に比較して、その表面抗原の解析、分化能、増殖能に関し明確になっていないところがあり、皮肉めいた言い方をすると、研究者それぞれに間葉系幹細胞と呼んでいるところがある。幹細胞としての性格と機能を実験面から明確にすることが、今後、細胞医療に間葉系幹細胞が使われていくことにつながる。


1。間葉系幹細胞研究の歴史
 間葉系幹細胞という概念は、自己複製能があり多分化能を有している間葉系細胞から来るものであり、どのような組織に由来するかは関係がない。しかしながら、初期においては骨髄に由来する間質細胞が多分化能を有していることから、間葉系幹細胞は骨髄に由来するものと理解されてきたところがある。Tavassoli博士が骨髄の生体内における間質細胞が骨髄以外に移植することにより骨形成能があることを指摘し、超微形態学的なアプローチを含めた形態学的な解析を進めていった(文献1)。その後、Friedenstein博士による、骨髄細胞の移植により、骨髄中に存在するマイナーな分画に骨形成能が存在することが明らかにされた(文献2)。Friedensteinらのその後の仕事で極めて重要なものに、試験管内における骨髄間質細胞成分のコロニー形成能である(文献3)。Colony-forming unit fibroblastic (CFU-Fs)は、元々造血系に使用されてきたコロニー形成を生じる単位として使用されてきたものを間葉系細胞に外挿して使用したことにより分かりやすさがあったものと筆者は理解している。それは、CFU-s (spleen), CFU-c (in culture)として呼ばれた造血系幹細胞の数の単位である。CFU-Fは、造血系幹細胞と同様に定義がされてきた。すなわち、細胞数とコロニー形成能との相関性、染色体マーカー、サイミジンラベルの手法をもって証明され、移植することにより骨、軟骨、脂肪組織、線維性組織を形成することで、生体における機能の証明によりその存在価値を高めていった。骨髄間質細胞と呼ばれることが多かったが、骨由来幹細胞、骨髄間質幹細胞と呼ばれた。

 間葉系幹細胞の名前を劇的に知らしめたのは、ヒト間葉系幹細胞の商業的価値とも相まって発表された、Pittenger博士による1999年のサイエンス誌論文である(文献4)。ここでは、やはり骨髄由来間葉系幹細胞の発表であり、概念的にはマウスで行われてきた研究と何ら変わることのない発表であったが、詳細な可塑性・多分化能の実験が丁寧に記述され、Google Scholarでチェックするとすでに6000報を超える引用があった。これは間葉系幹細胞の歴史が成熟してきたことと連関しているものの、同時に時代的にヒトES細胞が樹立され、注目を浴びたタイミングと一致している。胚性幹細胞に対し、体性幹細胞の代表として間葉系幹細胞がその存在を大きくしていった。その後、Verfaillie博士によりMultipotent adult stem cells (MAPC細胞)がNature誌に発表され、さらに間葉系幹細胞の注目を浴びていった(文献5)。しかしながら、このMAPC細胞は再現性が得られないこと、論文の一部に問題があったことより科学的な価値は得られなかったものの、日本においても研究がなされ間葉系幹細胞の評判を高めたことは間違いない。皮肉的な言い回しであるが、MAPC細胞を行ってきた研究者はどのようにして元の論文と同じような結果を得られたのであろうかと思っているが、事実なのかもしれないし、折角なのでMAPC細胞を細胞バンクに寄託していただき、多くの研究者に公開されればありがたいと思う。

2.間葉系幹細胞は正しい呼び名か? そのアッセイ法は?
 前述したように、間葉系幹細胞は骨髄間質由来で学問が進められてきたが、試験管内におけるアッセイは不明瞭なところが多いと思っている。ひとつの細胞が多分化能を示すという事実は、未だに証明されていないと思っている。造血系幹細胞のように生体内におけるアッセイ系が確立していることが必要不可欠であるが、ひとつの細胞由来である(a single cell-derived clone)証明がむずかしく、現実的に生体から採取した間葉系幹細胞の証明ができない。便宜的におこなわれているのは不死化された細胞株を用いた研究が行われており、ひとつの細胞株に由来するクローンが多分化能を示すことが間葉系幹細胞が存在する傍証になっている。CFU-Fにしても一つのコロニー内に多分化形質を示した論文はない。繰り返すと、正しいアッセイとして供給されるものは、1.生体内における移植実験での幹細胞性の証明、2.ひとつの細胞由来による多分化能性の証明、3.多分化能を保持したままの幹細胞が複製能を有していることの証明の3つである。造血系幹細胞および神経幹細胞に比べると、幹細胞性の証明が稚拙である。

 アッセイ法が確立されれば、その表面マーカーの混乱がなくなる。また、骨髄のみならず、滑膜、脂肪、歯髄を初めとした骨髄以外の組織の間葉系幹細胞についても同様の検討が可能となる。造血系幹細胞や神経幹細胞と異なることに間葉系幹細胞はほとんど全ての組織から得られるという特徴があり、混乱が生じるひとつの理由である。それだけではなく、分化能に関しても同様のことが言える。もともとのFriedensteinらの研究では、骨、軟骨、脂肪、線維芽細胞、間充織細胞として報告されたが、現在では多分化能は骨格筋、平滑筋、心筋、内皮まで含まれている。また、外胚葉に由来する神経、内胚葉に由来する肝細胞、膵β細胞への分化が報告されている。Woodburyの最初の「間葉系幹細胞から神経細胞へ」の論文(文献6)はGoogle Scholarにて1600を超える引用があり、筆者らの報告(文献7)も180を超えている。骨、軟骨、脂肪、線維芽細胞、間充織細胞への分化は常識的にも問題がないだろうが、骨格筋、平滑筋、内皮への分化に関しては確固たる証明がされていないというのが常識であろうし、神経に関してはマーカーの発現が人工産物であるという議論も多い。しかしながら、間葉系幹細胞からの分化が証明されていないものの、心筋、骨格筋、平滑筋、内皮への分化は明らかであり、同時に神経に関してはそのマーカーが明らかに発現し、カルシウムイメージング法により証明もあり、間葉系分画にそのような分化能を有している細胞が存在していることは間違いない。

参考文献
1. Tavassoli, M., and Crosby, W.H.: Transplantation of marrow to extramedullary sites. Science, 161: 54-56, 1968

2. Friedenstein, A.J.: Osteogenic stem cells in bone marrow. In Bone and Mineral Research, J.N.M. Heersche and J.A. Kanis, eds. (Amsterdam: Elservier), pp.243-272, 1990.

3. Friedenstein AJ, Deriglasova UF, Kulagina NN, Panasuk AF, Rudakowa SF, Luri?? EA, Ruadkow IA. Precursors for fibroblasts in different populations of hematopoietic cells as detected by the in vitro colony assay method. Exp.Hematol. 2(2):83-92, 1974

4. Pittenger MF, Mackay AM, Beck SC, Jaiswal RK, Douglas R, Mosca JD, Moorman MA, Simonetti DW, Craig S, Marshak DR.: Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells. Science 284: 143-147, 1999

5. Jiang Y, Jahagirdar BN, Reinhardt RL, Schwartz RE, Keene CD, Ortiz-Gonzalez XR, Reyes M, Lenvik T, Lund T, Blackstad M, Du J, Aldrich S, Lisberg A, Low WC, Largaespada DA, Verfaillie CM.: Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature. 418(6893):41-49, 2002. Erratum in: Nature. 447(7146):879-880, 2007

6. Woodbury D, Schwarz EJ, Prockop DJ, Black IB: Adult rat and human bone marrow stromal cells differentiate into neurons. J Neurosci Res, 61: 364-370, 2000.



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